(とびきりの美人を選んでくれた神様には申し訳ないけど、短くするか…)

そう思った宏美だったが、
「金がない…」

そのことをすぐに思い出したのだった。

住んでいるマンションを出ると、宏美は近所を歩いた。

見なれているその光景を歩いている自分は、自分のようだけど自分じゃないような気がした。

すれ違う人たちが自分のことを見ているのは…たぶん、それは気のせいだろう。

(何より、中身は男だからな)

宏美はふうっと息を吐くと、足を進めたのだった。

気がついたら、自分はよく知っている建物の前にいた。

『ブルーグラス』

そこは、ライブハウスだった。

躰は思った以上に覚えているようだった。

宏美は本日の公演が貼られている掲示板へと歩み寄った。