彼女の視線が薬指に向けられていることに気づいた宏美は、つかまれたその手を引っ込めた。

「何で…?」

心美が訳がわからないと言った様子で聞いてきた。

時すでに遅しだった。

「どうして…」

宏美は右手で重ねるように、左手の薬指を隠した。

「――じ、自分で作ったの…」

苦し紛れに、この状況から脱するためにあがいたが、
「指輪のデザインは私が考えたものだよ?」

見事に破られてしまった。

「そ、そうなんだ…。

同じことを考えてた人がいるんだね…」

宏美はごまかそうとした。

「椎名林檎」

武藤が言った。

「はい…?」

宏美は訳がわからなくて、首を傾げた。

(何を言っているんだ、この人は…)

どこか変わったところがあるなとは思っていたが。