「心美ちゃん」

宏美の母親が名前を呼んだので、心美は返事をした。

「宏美は、心美ちゃんが幸せになって欲しいと思っているんじゃないかと思うの」

宏美の母親が言った。

「――幸せに、ですか…？」

心美は呟くように聞き返した。

「好きな人とつきあって、結婚して、子供を生んで、育てて、年齢をとって…死ぬ時に、心美ちゃんが自分は幸せだったなとそんな風に振り返って欲しいんじゃないかと宏美は望んでいると思うの」

宏美の母親は言った。

「宏美の分まで生きて欲しいと私は言わないし、何よりあの子も望んでいないと思う。

宏美は、心美ちゃんが生きているだけでも嬉しいんじゃないかと思うの。

だから…」

宏美の母親はそこで言葉を区切ると、心美を見つめた。

「生きてね、心美ちゃん」