「だけど…」

宏美の母親は洟をすすると、微笑んだ。

「いつまでもあの子の思いに囚われているのは、よくないと思うの」

そう言った彼女に、
「よくないって…?」

心美は聞き返した。

「生きることが宏美の供養になるんじゃないかって思うの。

こうして泣いていたって、あの子が戻ってくる訳じゃないから。

足を止めたって、あの子が迎えにくる訳じゃないから。

笑って生きることが宏美の供養になるんじゃないかって、私はそう思うの」

「供養、ですか…?」

「いつまでもメソメソしていたら、宏美だって心配で成仏したくでも成仏ができないじゃない」

その言葉は少しずつだけど、心美の胸の中に入ってきた。

「――生きる…」

呟いたら、それまで空っぽだった胸の中が温かくなったような気がした。