教本は使い込んだのか、表紙の端っこが破れていた。

「これも、譲ってもらったの?」

そう聞いた心美に、
「うん、わかりやすいからって」

宏美は答えると、床のうえに座って教本を広げた。

「何を弾いてるの?」

心美も床のうえに腰を下ろすと、宏美に聞いた。

「村下孝蔵の『少女』って言う曲、まだ練習中だけど」

宏美は答えると、アコースティックギターを鳴らした。

「ムラシタコウゾウ?」

「シンガーソングライター、もう結構前に亡くなったらしいんだけど。

ネットで聞いたんだけど、他にも『踊り子』とか『初恋』とかいい曲がたくさんあった。

歌詞に日本語の美しさがよく出ているんだ」

「へえ…」

(いつの間に、宏美は変わったんだろう?)

宏美の話に耳を傾けていた心美だったが、彼が変わってしまったような気がして仕方がなかった。