宏美は自宅に帰ってきた。

キッチンからいい匂いがしていた。

夕飯の用意をしているみたいだ。

「何だ、帰ってきてたのかよ」

そこからモアイ像が顔を出したかと思ったら、そんなことを言ってきた。

宏美は何も返すことなくサンダルを脱ぎ捨てると、リビングに足を向かわせた。

「コラ、ただいまくらい言え」

モアイ像がそう言ってきたが、宏美は何も返さなかった。

「後少しで飯にするから、お菓子とか食べるんじゃないぞー」

モアイ像の声を聞き流しながら、宏美はベッドの下からギターケースを取り出した。

アコースティックギターを取り出してチューニングを始めた宏美に、
「何かあったのか?」

モアイ像が聞いてきた。

「――口説かれた」

ようやく口を開いた宏美に、
「ふーん、そうか」

モアイ像は返事をすると、夕飯の続きに取りかかった。