「兄貴は何にも言わなかったけど、俺が家出したことには気づいていたと思う。

兄貴は何も言わずに俺を自分の家に置いてくれた。

そこでアシスタントの手伝いをしながらバイトしてお金を貯めて、たまにだけどライブハウスに出かけて勉強した。

貯めたお金でギターを購入して独学だけど弾き方を学んで、辞書や小説、専門書を何冊も読んで作詞作曲の仕方を覚えたりした。

兄貴にダメだしされたり、アシスタント仲間からボロクソ言われたりして心が折れそうになった時もあったけれど、とにかくミュージシャンになりたいと言う夢を目指し続けた。

そして路上で自作の曲を披露していたところを運よく『ブルーグラス』のスタッフが拾ってくれて、今に至る…って言うところかな」

小祝は話を終えると、宏美に視線を向けた。

それからフッと口元をゆるめて、笑みを浮かべた。