「その時、俺は思ったんだ」

小祝は言った。

「親父が敷いたレールの上をただ歩くだけでいいのか?

自分の人生はそれでいいのか?

このまま会社を継いで結婚して、本当にそれで満足なのか?

そう思ったら、俺はミュージシャンになりたいって思ったんだ。

夢をかなえるためならば、何年かかったとしても構わない。

せっかくの1度きりの人生をここで終わらせてどうするんだ。

1度はあきらめた夢をもうあきらめたくないと思った。

それどころか捨てたくないって思った。

その日のうちに辞表と置き手紙を置いて、必要な荷物を簡単にまとめて家を出た。

上京した兄貴を頼ってやってきて、半ば強引にだけど兄貴のところに転がり込んだ」

そこまで言うと、小祝は言い過ぎたと言うように髪をかきあげた。