「兄貴の部屋が俺が俺でいられる唯一の場所だった。

上京した兄貴が残してたレコード盤や小説やマンガが部屋の中にたくさんあったんだ。

それを見たり聴いたりして…兄貴の部屋の中で過ごす時間が楽しみで、俺が落ち着くことができる場所だった。

俺がミュージシャンを目指そうと思ったのも、兄貴の影響なんだと思う」

そう語っている小祝に、
「…そうなんですか」

宏美は呟くように返事をした。

「案の定で親父には大反対をされたよ。

そんなくだらないものはとっとと捨てて、会社を継げって言われた。

俺もミュージシャンになれる気がしなかったから、大学卒業後に会社に就職して働いた。

会社で働き始めて3年目ぐらいだったかな?

親父が同じ製造業を営んでいるカホさんの会社との結婚話を持ち出してきたのは」

小祝はそこで話を区切った。