「だけど、兄貴は早々と自分の生き方を決めていた放蕩息子だった。

高校卒業と同時にとっとと家を出て上京して…結果的にはマンガ家として大成功をした訳なんだけどね。

東川氷柱(ヒガシカワツララ)って知ってる?」

小祝が聞いてきた。

「東川氷柱って、『さよならは僕から言う』とか『半分だけの青空』とか『神様、待って』の?」

思いついたマンガのタイトルを答えた宏美に、
「うん、そうだよ」

小祝は首を縦に振ってうなずいた。

「よく知ってるね、ファンなの?」

続けて聞いてきた小祝に、
「ファンと言うか、まあ…」

宏美は曖昧に笑ったのだった。

(心美が東川氷柱のファンで単行本が部屋にあったから読んでいた…なんて、そんなことを言っても無理だろうな)

宏美は心の中で呟いた。