宏美はハッと我に返って、小祝の胸ぐらを離した。

「えっと…その、感情が高ぶると1人称が“俺”になるんです…」

我ながらヘタクソな言い訳だと、宏美は思った。

勢いだったとは言え、怒りに任せてとは言え、“宏美”の本性が出てしまったことを反省した。

「ああ、そうなんだ…」

カホの父親は多少は納得したようだった。

「そんなことはどうでもいいんだ!

一択、帰るぞ!

お前は私が敷いたレールの上を歩けばいいんだ!

ミュージシャンなんて言うくだらない夢はとっとと捨てて、早く会社を継ぐんだ!」

島田が小祝の腕をつかんで連行しようとした。

「離せよ、親父!」

小祝は自分の腕をつかんでいるその手を振り払おうとした。