君のいない世界に、あの日の流星が降る

「みんなの言葉を聞けば聞くほど避けるようになって……。なのに、ひとりだとどうしようもないくらい苦しくて……」
「そうね」

 短い言葉で言ったおばさんの瞳にも涙が溜まっていた。

「私……」

 と言葉を続けようとしても、声が震えてしまいうまく話せない。

「こうやって泣いているのもイヤだから、なんとかしたいって思うのになんにもできない。悲しくてたまらないはずなのに、お腹はすくし、喉も乾くんです」

 自分の子供を亡くしたおばさんは、私の何倍も悲しいはず。
 なのに、おばさんはテーブルに投げ出した私の手をやさしく握ってくれた。

「でも、電話をくれたじゃない。月穂ちゃんから電話が来て、私がどれだけうれしかったか」
「……それは」
「きっと私も月穂ちゃんも、この一年間同じところでうずくまっていたような気がするの。でも、少しずつ変わろうとしている。変えようとしていると思うの。それは星弥のためじゃなく、自分のために」

 握られた手に力が入った。
 どんな人の言葉よりもすっと沁みこんで、心に温かさが灯った気がした。

「あんまり学校にも行けてないし、親ともろくに話もしてなくて……。変わりたいけど変わりたくないっていう、自分でもわからない毎日なんです」
「流れに身を任せて、思ったようにすればいいと思う。少なくとも私はそうしてる。それに流星群が――」

 ハッと口を閉じたおばさんが、つないでいた手をほどいた。

 今……流星群って言ったの?

「違うの」おばさんは薄く笑うと、窓の外に目をやった。

「あの子、よく言ってたから。『流星群が、奇跡を運んでくれるんだよ』って」
「私もよく聞きました。今年の七夕に見られる流星群のことですよね」

 無意識に身を乗り出していた。
 おばさんはひとつうなずいてから、迷うように首をかしげた。

「実は、私も月穂ちゃんに話をしたいことがあるの。でも、きっと笑われちゃう」

 なぜだろう、おばさんが言おうとしていることがわかる気がした。
 周りの音が遠ざかり、おばさんの口元だけが視界に入っている。

「ちょっと前のことなんだけどね」

 唇の動きがスローモーションで見えている。

「不思議な夢を続けて見たの。夢のなかで、まだ星弥は生きていてね。中学三年生の頃かな」
 鼓動の速度があがるのがわかる。
 それって、それって――。

「覚えてる? 月穂ちゃんがうちに遊びに来たとき、てるてるぼうずを作ったことがあったでしょう?」
「そんな!?」

 思わず大きな声を出した私に、店内の客が驚いた顔を向けた。
 でも、それどころじゃない。

 こんなことがあるの……?

 おばさんは大声に驚きぽかんとしている。

「すみません。その話……詳しく聞かせてください」
「え、ただの夢の話よ?」
「それでも聞きたいんです。それって、二年前の七夕の日の夢ですよね?」

 私の質問に気圧されるように、おばさんはカクカクとうなずいた。

「ちょっとあの時とは状況が違ったんだけどね。ほら、ふたりして家に来たじゃない? でも夢のなかでは、星弥だけが買い物に行ってて不在だったのよ」

 心臓の音がすぐ近くで聞こえているみたい。
 こんなことってあるの?

「夢のなかでね、私は月穂ちゃんといろんなお話をしたの。星弥の好きな食べ物とかの話」

 やっぱりそうだ。おばさんもあの夢を……同じように見ていたんだ。
 質問したいことはたくさんある。
 でも、今は黙っておばさんの話を聞かなくちゃ。

「夢のなかなのに、私は『これは夢』だってわかってた。だけど、体が動いてくれないの。口が勝手にあの日と同じことをしゃべってる感じだった。戻って来た星弥が月穂ちゃんと二階へ行ったでしょう。星弥を抱きしめたかったけれど、やっぱり体は動かなくてね……」

 そこでおばさんは口を閉じたかと思うと、苦し気な表情になった。
 おばさんはアイスコーヒーを飲んでから、「ふう」とため息を声にした。

「私が月穂ちゃんに話したい、と思ったのは、そのあとに起きたことでね」

 ズンとお腹に重い衝撃が走るのを感じた。
 私は知ってる、おばさんが言いたいことを。

「しばらくひとりでいるうちに、思ったの。これはやっぱり夢だって。だとしたら、うれしいけどこのあと絶対に悲しくなる。早く目を覚まさないと、って」

 ああ、やっぱりそうなんだ……。
 覚悟を決めるように、私は背筋を伸ばした。

「その時に二階から私が下りてきたんですね? 実際は星弥に見送られて帰るはずなのに、ひとりで階段を駆け下りてきた」
 目を見開いたおばさんが、口の動きだけで「そう」と言ったあと視線を宙にさまよわせた。

「そうなの。実際はふたりで下りてきた記憶があるのに、急に違う展開になった。月穂ちゃんが下りてきた瞬間、まるで体の束縛が解けたみたいに自由に動けるようになったの。月穂ちゃんは私に――」
「病院へ連れていくように言いました」
「どうしてそれを……」
「だけどおばさんは、私にこう言ったんです。『あのね……星弥はもう亡くなったのよ』って」

 おばさんは制止したように動かなくなった。
 頭のなかがグルグル回っている。
 私たちは、同じ夢を見ていたんだ。
 混乱したようにおばさんは何度も首を横に振った。

「私、夢のなかで月穂ちゃんにひどいことを言ってしまった、って後悔して……。え、どういうことなの?」
「きっと、私たちは同じ夢を見たんですよ」

 そうとしか考えられない。
 あの日、私とおばさんは二年前の七夕の日の夢を共有したんだ。

「同じ夢を……。まさか」
「過去に起きた夢を見ることはあると思います。でも、あれは結末が違った。私、そういう夢を二回見たんです。どちらも、すぐに夢の世界だってわかったけれど、言葉や行動がコントロールしにくくて、でも、できる時もあるんです」

 一気に言うと、おばさんは気圧されたように首を横に振った。

「……ごめんなさい。ちょっと混乱しちゃって」

 ギュッと目をつむるおばさん。
 自分のなかで出た答えを言うなら今だろう。

「私、思ったんです。夢のなかでの行動を変えれば、星弥を助けることができるかもしれない、って。星弥の死をなかったことにできるかも、って」
「え!? 本当に……?」

 すがるように私を見たおばさんの瞳は涙でいっぱいだった。

「わかりません。でも、やってみる価値はあると思うんです」

 こんな話、誰も信じないだろう。
 夢の世界での行動を操れば、現実世界も変えられるなんて聞いたことがない。
 でも、同じ悲しみで打ちひしがれている私たちに与えられたチャンスなのだとしたら。

 そっか、と急に霧が晴れたような気分になった。
「おばさん。ひょっとしたらこれが、星弥が言っていた『流星群が運んでくる奇跡』かもしれません」

 世界中の人が否定したって構わない。
 星弥に会えるならどんなことだってやれる。

 私がすべきことは、夢のなかで星弥の死を回避させること。それだけだ。









「梅雨明けだってさ」

 空翔の声が聞こえた時、私は机のなかの荷物を取り出しているところだった。

「ここんところ、ずっと晴れてるもんな」

 答えたのは星弥。
 顔をあげると、教壇に立ったふたりが黒板に落書きをしながら話をしている。
 星弥は星空を、空翔は青空を競い合うように描いている。
 本当に子供みたい、と笑ってから気づく。

 あの夢を見ているんだ……。

 よかった、しばらく夢を見られていなかったから素直にうれしかった。
 夢のなかでは、まだ中学三年生のまま。
 今は、いったい何日なのだろう。
 最後に見たのは七夕の日の夢だった。

 大丈夫。
 今回は夢の冒頭から『病院に連れていく』が頭に浮かんでいる。回数を重ねるごとに自分の意志が反映されるのかもしれない。
 すぐ立ちあがり星弥に声をかけなくちゃ。
 が、足に力を入れようとしても思った通りに動いてくれない。
 試しに声を出そうとしてみるがこれもダメ。

「ねえ、ほづっち」

 なつかしいあだ名に横を見ると、クラスメイトの希実(のぞみ)が誰かを連れて立っていた。
 希実はダンス部の部長で、当時はすごく大人っぽく見えていたのに、今見るとまだ幼さが残る顔立ち、という印象。
 サイドテールの髪をいじりながら希実は申し訳なさそうな顔を浮かべる。

「うちの後輩なんだけどさ。恋に悩んでるんだって。『月読み』してあげてよ」
「すみません」

 しおらしく頭を下げる女の子に、私は「いいよ」とほほ笑んであげる。
 本当は全然よくない。
 星弥は病院に行ってくれたのだろうか?
 それより、今がいつなのかも気になる。

 そうだ、黒板に今日の日付が書いてあるはず。
 けれど、私は女子を隣に座らせると、紙とペンを差し出した。
 どんなにがんばっても、黒板に目線は向いてくれない。

「ここに、生年月日と名前を書いてね」
「はい」

 希実が私のうしろの席に座ったので、目線はさらに黒板から遠ざかる。
 ああ、早く星弥に声をかけないと。
 焦る私の気持ちなんて知らずに、希実は後輩である『四月三日生まれの片倉(とも)』さんの恋について語り出す。
 同じダンス部の同級生に片想いをしているとのこと。
 忘れていたけれどこんなことあったな……。
 この日になにかあったんだっけ?
 いくら考えても思い出せないまま、私はバッグからノートを取り出した。

「白山先輩お願いします。独学で占いをやってるって聞いて、どうしても占ってほしかったんです」

 キラキラした目で見てくる片倉さんに「んー」と答えてから私はノートをめくる。

「独学っていうか、勝手に作っただけなんだよね。当たらないかもよ」
「ウソウソ」と、希実が大声で否定する。
「ほづっちの占いはめっちゃ当たるって有名なんだよ。星好きなカレシがいてさー」
「希実、余計なこと言わないで」

 さらりと忠告しながらも私は笑っている。
 こんなことしているヒマはないのに、全然体が言うことを聞いてくれない。

「えっと、片倉さんはおひつじ座だね。私と一緒だ。好きな相手の生年月日はわかる?」
「たしか、おうし座だったと思います。なんとなく似てる星座だったから。誕生日は聞く勇気がなくって……」

 自信なさげに答える片倉さんに、満月カレンダーのページを開いてみせた。

「今日が七月二十二日でしょう?」

 知りたかった日付が自分の口から発せられた。
 ああ、そうか。こんな昼間なのに帰り支度してたってことは、今日は終業式なんだ。
 どうりで放課後にしては教室のなかが明るいわけだ。

 最後の夢から二週間以上経っていることに気づき焦ってしまう。

「明日が満月なんだけど、行動を起こすなら後半のほうがおすすめだね。好きな相手がおうし座だったとして、月との位置関係から見ると、いちばんいい日は三十一日だね」
「はい」

 おうし座のページには、星弥の書いたアドバイスが彼の字で追加されている。
 何年かぶりに見る私たちのノートは、ふたりの思い出。
 それまで月のことしか興味がなかった私に、夜空に散らばる星座の位置をわかりやすく説明してくれ、ふたりで占いを考えた。

 今の私が『月読み』ができないのは、星弥を思い出にできずにいるからなんだ……。
 泣きたいのに、過去の私は「でね」と片倉さんの顔を覗き込む。

「告白にはまだ早いみたいだから、まずはさりげなく距離を詰めるのがいいと思う。たとえば、いつもより多めに話をするとか、笑顔を意識するとか、そういうことが効果的って出てるよ」
 必死でメモを取る片倉さんを見ながら、なんとか席を立とうとするけれどやっぱり動いてくれない。
 そうこうしているうちに、教壇の前にいたふたりの姿は消えていた。
 それから片倉さんは色々と聞いてきたけれど、そのたびにノートを参照しながらポジティブになれるような読みをしてあげた。
 何度もお礼を言い、ふたりがいなくなると再び荷物をカバンにしまっていく。

「あれ、今日は星弥君と一緒じゃないの?」

 今度は誰なの、とふり向く。
 えっと、この子は……。そうだ、米暮(よねくれ)さんだ。私は苗字で呼んでいた。
 誰よりもショートカットが似合っている女子。
 今はもう、連絡を取り合うこともない元友達。

「部活に顔出すみたい。あとで会うよ」
「あいかわらずうまくいってるんだねー。あぁ、うらやましい」
「なに言ってるの。カレシ、自分から振ったくせに」

 この頃の私は、こんなふうにニコニコと話をしていたんだ。
 今とはまるで別人だ。

 ふと、麻衣のことが頭をよぎった。
 私が学校に行かないせいで、悲しい思いをしていないといいな……。
 ダメ……。今は、夢の世界に集中しなくちゃ。

「あたしにも『月読み』してよ。せっかくの夏休みなのに、これじゃあひとりぼっちだもん」

 米暮さんが前の椅子にうしろ向きで座った。

「だって、米暮さんは全然言うこと聞かないじゃん」
「今度はちゃんと聞くから。ね、お願い!」

 たしかにこの会話を交わした覚えがある。
 このあと、先生が来るまでずっと『月読み』をしたんだ。
 せっかくの夢なのに、これじゃあ星弥の運命を変えられない。
 流星群の奇跡を起こすには、どうしても星弥を病院へ連れて行かなくちゃいけないの!

 ふと、ノートをカバンから取り出す手が止まった。
 ゆっくり手を開いてみると、すとんとカバンに落ちる。
 自分の意志で顔をあげると、米暮さんはスマホとにらめっこしている。
 右へ、左へ視線を向けてから、自分の手のひらを眺める。
 手を開いたり閉じたり……動いている。体が自由に動いている!

 ガタッ。音を立て椅子から立ちあがった私に、米暮さんは「どした?」とスマホから目を離さずに尋ねた。

「ごめん。用事あるんだった。また連絡するね」
「え、マジ?」
「本当にごめん。またね」

 不満げな米暮さんを置きざりに教室から飛び出す。
 まだ昼前の廊下はすでに蒸し暑く、あの日の夏を感じる。
 この頃の私は、まだ病気について知らされていなかったはず。
 体が動く今こそ、過去を変えるチャンスだ。

 さっきの話では星弥は部活に顔を出す、と私に伝えたらしい。
 靴を履き替え、テニスコートへ向かった。
 日差しも、セミの声も、苦しくなる呼吸さえも現実のことに感じる。
 コートを囲む金網に手をかけ、なかを見るとちらほらと部員の姿が見えた。
 ストレッチをしていた空翔が私に気づき手をあげた。
 必死で手招きをするけれど、あげた手を振り返してくるだけ。
 もどかしさに「空翔!」と叫ぶと、ぴょんと飛びあがり駆けてきた。

「んだよ。大きな声出すなよ」
「星弥はどこ?」
「は?」
「星弥だってば! どこにいるの!?」

 いぶかしげな顔に、スッと体から熱が奪われていく。

「ここに……いるんじゃないの?」

 ようやく理解したのだろう、空翔は「ああ」と肩をすくめた。

「なんか用がある、って言い出してさ。引退試合もうすぐってのにさ」
「どこに……行ったの?」
「知らない。てっきり月穂と一緒かと思ってた」
「ううん……」

 どこへ行ったのだろう。
 二年前の記憶を辿るけれど、うまく思い出せない。
 早く星弥に会わないといけないのに……。
 スマホを取り出し電話をかけてみる。

『おかけになった電話番号は電源が入っていないか、電波の届かない場所にいます』

 無機質な女性の声が流れるだけ。
 どうしよう……。
 私が悩んでいると思ったのか、空翔は「なあ」とさっきよりトーンをやわらかくした。

「星弥のこと、もっと信用してやれよ」
「え?」
「好きな人に悲しい思いをさせたりしないし」

 そこまで聞いて、やっと空翔が言わんとしていることがわかった。
 私が星弥の浮気を疑っていると勘違いしているんだ。

「疑ってなんかないもん」
「そういうことじゃなくてさ……。ま、いいや」
「私、行くね。練習がんばって」
「お前はがんばりすぎんなよ」

 空翔の声を背に走り出す。
 校門を出たところで星弥に電話をかけるが、やっぱりつながらない。
 ラインを送っても既読にならない。

 焦る気持ちが再度体を熱くする。
 額から流れた汗をぬぐい歩き出した時、違和感を覚えた。
 足元のアスファルトがぬかるんだ地面みたいにやわらかく感じられたから。
 同調するように周りの木々や家がゆがみだしている。

 夢が終わりを迎えようとしているんだ……。

「ダメ。まだ、ダメ!」

 ここで夢が終わってしまったらなんにもならない。

「お願い。まだここにいさせて。お願いだから!」

 目をギュッとつむり人目もはばからず叫ぶけれど、セミの声はどんどん遠ざかっていくようだ。




 どれくらいそうしていただろう。
 静かに目を開けると、見覚えのある四つ角に立っていた。
 ここは、星弥の家に近い場所だ。
 大丈夫、まだ夢のなかにいるみたい。

「よかった……」

 時間が経ったらしく、上空は藍色に塗られ、住宅地の向こうにわずかに残ったオレンジ色の雲が浮かんでいた。
 まだ風に温度はあるけれど、日差しがないぶん涼しく感じられる。
 体はまだ自由に動くらしく、スマホを開くことができた。
 日付は……同じ。時間はもう七時近い。
 星弥からの着信やラインの返信はないまま。
 二年前の今日はなにもなかったはず。
 夏休みに会った記憶はあるけれど、それがいつのことかは覚えていない。
 スマホにスケジュールを入力しておけばよかったと後悔したところで、『日記アプリ』の存在を思い出した。
 クラスで一時期はやっていて、私もたまに書いていた。
 最後まで非公開にしていたはずだけど、星弥が亡くなってからは開いてもいない。
 存在すらすっかり忘れていた……。
 スマホのアイコンのなかから『日記アプリ』を探そうとする指を宙で止めた。
 よく考えたらスマホで見られるのは、昨日までの日記だ。
 今日なにがあったかは、調べようがない。

 ……目覚めたら確認しなくちゃ。
 スマホは新しくしちゃったけれど、アプリの引継ぎサービスを使えば、過去の日記も見られるはず。
 それよりも早く星弥に会わなくちゃ……。
 迷いながら、星弥の家の門を開けた。
 自分の意志で動ける今、星弥にもおばさんにも病気のことをストレートに伝えよう。
 そう、迷っている時間なんてないのだから。
 強く自分に言い聞かせ、星弥の家のチャイムを鳴らした。
 すぐにおばさんが出てきてくれた。
 夕飯の準備をしていたらしく、エプロン姿のおばさんがかわいく見えた。

「いらっしゃい。あら、星弥は一緒じゃないの?」
「こんにちは。え、星弥いないんですか?」
「今日は部活だったんじゃないの?」

 質問し合っているうちに、おばさんが「大変!」と短く叫んだかと思うと小走りでキッチンへ駆けて行く。
 追いかけると、どうやらコンロの火をかけっぱなしだったらしく、唐揚げを油鍋から急いで取り出している。