君のいない世界に、あの日の流星が降る

「別れよう」

 星弥がそう言ったとき、私はまだ笑っていたと思う。

 それはロビーで会ったおばさんに、星弥が高校に合格したことを聞いたばかりだったから。
 はしゃぐ私におばさんは泣いていた。
 きっと、うれしくて泣いているんだと思い、急いで星弥のいる病室へ来た。
 よかった。『大事な話がある』なんてラインが来てたからドキドキしてしまった。

 星弥は入院着である薄いブルーの服で、前よりも少し元気そうに見えた。
 私は『おめでとう』をくり返し、個室じゃなかったら周りの人に怒られるだろうってくらいはしゃいだ。
 そんな私に、星弥は別れを切り出した。

 笑みを消す私に星弥はうつむいたまま「ごめん」と言ったっきり黙ってしまった。
 この場面を、前にも体験したことがある。

 ……そっか、これは夢だ。

 病院に呼ばれた私は、星弥から別れを告げたんだ。
 おばさんが泣いていたのは、彼の病気を知ってしまったから。
 きっと星弥が自分の口で伝えるために口留めしていたんだろうな。
 あの時は気づかなかったけれど、今ならわかる。
 そして私は、そのまま病室から飛び出し、ロビーで泣いているおばさんに星弥の病気のことを聞いた。

『治らないの』『発見が遅かったみたいで』『治療は気休めだって』

 いろんな言葉が頭でぐるぐる。
 それから私は三日間泣いて、次の日から毎日のように病院へ行った。
 親にも事情を話し、学校を休むようになった。
 『すい臓がん』という病気についても調べたりもした。

 別れを告げられても、顔を出す私に星弥はなにも言わず諦めたように受け入れてくれた……。

「ああ……」

 ため息は、別れを告げられたせいじゃない。
 この時点での入院は、現実と同じだから。
 流星群は奇跡を運んでくれるはずなのに、どうして?
 右手を開いたり閉じたりしてみる。
 大丈夫、ちゃんと動かせている。
 スマホを開くと、今日は十月二十五日と表示されている。
 日記アプリを開いても、前と同じことが記してあるだけ。

「星弥、あのね……」
「ごめん」
「違うの。七月に病気のことがわかったよね? あのあと、すぐに病院へ行かなかったの?」