目覚めると同時に、忘れかけていた日記アプリを起動させた。
 前のスマホからのデータ移行やバージョンアップなどで時間がかかったけれど、メモみたいな日記はまだ残っていた。
 あの頃を思い出すのが怖くて、飛ばし飛ばしに読んだ。
 でも結局、途中で読むのをやめてしまった。

 アプリの内容は前に書いたままだった。
 夢で起きたことが現実世界に反映されていると思ったのに、なにひとつ変わっていない。

 やっぱり、結局は夢なのかな……。

 夢で見た七月二十二日は、現実で星弥が受診した日より三カ月も前のこと。
 あの日、私が遅れて星弥の家についたとき、彼はたしかにいた。
 病院に行った形跡はなかったと思う。
 つまり、夢のなかの星弥は、現実世界よりも早く治療を始められるということになる。

「信じなくちゃ……」

 アプリの内容が変わっていなくとも、現実世界に夢が反映されていると信じよう。
 ひょっとしたら……星弥が生き返っているかもしれない。
 そうだよ、私が信じることで奇跡が起きるかもしれない。
 すぐにでも星弥にラインを送りたかったけれど、もう少し頭のなかを整理したかった。
 学校へ行けば、ううん……バスのなかとかで会うかも。
 高校でも星弥はテニス部に入ってるだろうから、朝練がある。

 そう考えると居ても立っても居られず、早々に家を出て学校へ向かった。
 間もなく七月になろうという街は、朝日に輝いていて、昨日の雨の残りが木や葉、道端でキラキラ反射している。
 やっぱり星弥がいるからこそ、この世界は輝くんだね。
 リュックのなかでスマホが震えていることに気づき、道の端に寄って確認すると『星弥ママ』の文字が表示されている。
 心臓が大きく跳ねた。
 星弥が家にいる、という報告かも!
 深呼吸しながら通話ボタンを押した。

「おはようございます」

 そう言う私に、おばさんは『おはよう』と静かに言った。
 声のトーンでわかった。星弥は生き返っていないんだ、って。

「夕べも同じ夢を見ましたよね?」

 低い位置で照らす朝日に目を細めた。
 あまりにもまぶしくて、自分が吸血鬼にでもなった気がする。