「受験勉強始める前はね、このへんのヤツ読んでたの」

小宮山が次々と本を取り出す。
ハイデガー、和辻哲郎、フロム、ハイエク、アーレントに・・福沢諭吉!?

「福沢諭吉って哲学者なの!?」
「さあ。武士じゃないの? よく知らない」
「知らないってオマエ・・」

「みんな哲学者ってわけじゃないよ? この人は心理学者だし、コッチは経済学者」

小宮山が今取り出した本はだいたい幕末から第二次大戦前後くらいの時代に書かれた本ばかりで、ハイデガーは世界大戦の頃の哲学者。その辺りの本が小宮山的に今一番面白いらしい。

自分じゃどうにもならない何か、例えば戦争や、社会制度や、時代の流れみたいなもの? そういうモノにぶち当たった時に、当時の人たちが何見て、何考えて、世界をどんなふうに捉えたか。
本にはそれが書き残されてる、って。

小宮山も同じだったのだろう。
自分じゃどうにもできない環境の中で、必死に考えて、ふりかかる理不尽を自分なりに解釈しようとがんばった。
立ち直ってく過程で、たくさん本を読んだらしい。哲学科はその延長みたいなもんだって小宮山は言う。