「ありがとう……ございます……」
その人は優しくて、温かくて。私を絶望の淵から救いだしてくれたーーー。
「ほら、少しは落ち着いたか?」
「……はい」
その人は私に、温かい紅茶を淹れてくれた。
ピーチティーの甘い香りが、いっぱいに広がっている。
「いつからだ」
「……え?」
マグカップを両手に持ち顔を上げると、その人は「いつから殴られてたんだ」と聞いてくる。
「……一年前からです」
「一年前?……そんなに」
その人は驚いていた。そして再び、口を開く。
「……警察には行かなかったのか?」と。
だから私は「……行きました。何度も行きました。 でも、何もしてもらえませんでした」と答え、紅茶を一口飲んだ。
「……そうか。そうだったのか」
その人は、その後黙り込んでしまった。
「……私、逃げたかったんです」
「え?」
なぜだか分からないけど、その人には話してしまっていた。
「ずっと、逃げたかったんです。……でも逃げることは出来なくて、逃げてもまた連れ戻されてしまって。それでまた殴られて……」
その繰り返しだった。だから私は、自分の人生に絶望した。
「……そうなのか」
「……私、生きるのが辛くて……っ」
マグカップを握りしめたまま、私は口を閉ざした。
「それで……死のうとしたってことか」
「……はい」
私はその問いかけに、素直に返事をした。