「……お前、名前は?」

「………」

「ったく……。名前くらい言えるだろ」

 なんで……。なんで今私は、こんな所にいるんだろう……。

 さっき確かに、私は飛び降りて死のうとした。 でもその時、今目の前に男の人が、それを阻止したんだ。
 ……死なせてくれなかった、死にたかったのにーーー。

「お前、本気で死のうとしたのか?」

「……なんで止めたんですか」

「はっ?」

「なんで……。なんで止めたりしたの……」

 死にたかった、もう生きていたくなんてなかったのに……。

「馬鹿野郎! 目の前で死のうとしてるヤツがいたら、普通は助けるだろ!」

「死にたかったのに……。死にたかったのに……」

 あれ……。何でだろう。
 なぜだか分からないけど、涙がでる。なんでなの……。

「……お前、男に暴力振るわれてるのか」

「っ……」

 そう聞かれても、何も答えられない。 ただ拳をぐっと握りしめるだけ。

「その顔の傷、男に殴られたんだろ?」

「……ふぅっ」
 
 急に涙が止まらなくなった。涙で視界が滲んで、ポロポロと涙が溢れる。

「……辛かったんだな、お前」

「ふっ……うぇっ……っ」

 もうこの世界に生きていくのが辛い。もうどうにでもなってほしい。

「……可哀想に。よっぽどガマンしてたんだな」

 そう言ってその人は、そっと私を抱き寄せてくれた。

「俺の胸を貸してやる。……今のうちにたくさん、泣いておけ」