「辛い現実から断ち切るにはまず、出来ることから始めた方がいいんじゃないか」
「……出来る、こと?」
「ああ。 お前にまず出来ることは、髪を切って気持ちを軽くすることだ。いつまでも同じ髪型でいても、男に囚われているだけだぞ」
確かに高根沢さんの言う通りだ。 私は猛にずっと囚われている。
……ずっとずっと、猛の暴力に支配されている。猛からは逃げられない。
「いつまでも囚われていたいのか、男に」
「……そんな訳、ないです」
ずっと猛に囚われるなんてイヤ。……そんなのイヤーーー。
「ならまず、髪を切ってこい。金なら出してやる」
「……でも、いいんですか」
「俺もちょうど切りに行く所だったからな。ついでだ」
そう言ってタバコの火を灰皿に押し付けた高根沢さんは、私に視線を向ける。
「……ありがとうございます」
「今日今から美容院を予約している。 行くぞ」
「え?……あ、はい」
今から私は、髪を切るんだ。……どんな自分になるのか、全然想像できない。
私は……変われるかな。 変わることが、出来るかな……。
「何してる美結。早く着替えろ」
そう言われて私は「は、はい……」と返事をした。
そして私は、急いで昨日買ったばかりの服に着替えた。
「着替えたか?」
「はい。 お待たせしました」
「よし、行くぞ」
着替えた私を車の助手席に乗せた高根沢さんは、美容院へ向けて車を走らせた。
◇ ◇ ◇