「やめてっ! イヤッ……!!」

 遠のく意識の中、髪を鷲掴みにされて壁に叩きつけられる。

「いたっ……」

 私は痛みに耐えられなくなり、その場で震えながら蹲(うずくま)るしかなかった。

「おい、美結。お前どういうつもりだよ?」

「ごめん、なさいっ……」

 彼氏に日々暴力を受けていた私は、逃げ場もなかった。
 逃げたくても、逃げられなかった。逃げることも、許されなかったーーー。

「猛(たけし)……ごめん、許して……っ」

「美結、お前は俺のものだろ?……ダメだろ、男のいる所になんて行ったら」

 猛は私の彼氏、猛とは付き合って一年半年になる。
 でも付き合い始めて半年を過ぎた頃から、猛は変わってしまった。
 ちょっとしたことで怒りやすくなり、気がついたらいつの間にか、猛は私を暴力を振るうようになった。

 暴力は日に日にひどくなっていき、暴力を受けた跡は残るようになった。
 腕や脚、背中、顔。どこもかしこも殴られるようになった。
 
「ごめんなさいっ……」

「いいんだよ、美結。分かってくれたなら」

 だけど猛は、その後すぐに優しくなるんだ。
 私を優しく抱きしめてくれて、涙も拭ってくれる。……だからこそ、別れられない。

「……猛、本当に、ごめんなさい」

「もういいんだって。……殴って悪かった」

 猛はこうして優しい言葉をくれる。 人が変わったように優しくなって、笑ってくれる。