それから1週間と少し。普通に過ごした。バイトを増やそうとも考えたが、まだ慣れない生活のため、もう少し今のバイトに慣れてからにしよう。と言うことになった。でも、お互いに、バイト先から、仕事ぶりを評価され、少しバイト代が上がった。これなら、もう少し貯金が早く進みそうだ。

 少し変わったことがあるとすれば、たまにクラスメイトを見かけるようになったこと。あれ以来、麻生夏たちとは会っていないが、洪太が峯崎歌子を、涼が青木奏を、それぞれ別の日に見かけたらしい。見かけただけで、向こうは気づいていないみたいだったし、トラブルにもなっていない。とのことだったので、特に心配はしていないが、、、。レポ。この場所がバレないといいな、とは思っている。私なりに、この街に愛着が湧いてきている。アパートの周りのお店の人。マランさん、エレンさん。この街にいるのは、優しく親切な人ばかり。そんな人たちに、これ以上の迷惑をかけることなんてしたくない。
 それに…。私はこの4人での生活が楽しくなってきている。このロムニカ王国に転生してきてもう、1ヶ月が過ぎようとしている。最初はクラスメイトと同棲という状況に驚いたりもした。魔法が使えることに喜んだりもした。だけど、なにより、この4人での生活が楽しい。王選とか関係なく、楽しいから、できれば面倒ごとは避けたい。


 そんなことを思ったその日のバイト帰りに、事件は起こった。
「伊藤春香。あなたに、魔法での勝負を申し込むわ」
バイト後の帰り道、背後から急に声が聞こえた。振り返ると、その声の主は、麻生夏だった、、、。

「夏、なんで、?」
私より先に口を開いたのは深沙だった。
「なんで、春香になの?不満があるなら私に言えばいい。」
「不満があるのは、深沙に対してじゃなくてそこの伊藤春香になの。深沙は黙ってて。」
過去とは言え、友達だった人にも失礼な態度だ。
「あのさ、場所を変えない?通行人や、この辺りの人たちに迷惑がかかる。」


「で、なんで、急に魔法で勝負。なんて話になるの?」
「この世界に来て新しく取得した能力で勝負をしようと思っただけよ。あんたと個人的に勝負をしたいから。魔法なら1人で使えるでしょ?」
「私はあなたと勝負をしなきゃいけない理由はないし、したくもないんだけど。」
と言いつつ、逃げ道を探す。何を言っても、聞かなそうだから、いざとなったら、逃げるしかない。深沙は、、ってあれ?
「深沙を探してる?w深沙なら、さっき走っていったわよ。友達にも見捨てられて、かわいそうね。」
クスクス笑う麻生夏。結局はそれが言いたいだけか。

「またこの前みたいに、嫌味を言いに来ただけ?それなら、早く帰りたいんだけど」
「まさか、嫌味だなんて。w事実を言っただけだし?あなたがあの3人に必要とは思えない。魔法ですら、私に劣る。そう思ったから、それを確かめるために勝負を申し込むのよ。納得してくれた?」
これは、挑発だろうか。ううん、挑発だろうとおちょくられてるだけだとしても、なんでもいい。これは、私の存在意義をかけた勝負。受けないと言ったら言ったで、面倒なことになりそうだ。

「わかった、その勝負、
『勝手に話を進めないでもらっていいかな〜?転生者同士の接触は禁止してないけど、こんなことになるなんて想定外だよ』
突然、アリアナが乱入してきた。
「禁止してないなら、何しようと勝手でしょ。自由にさせてよ。」
『でもそう言うわけにもいかないからなぁ。余計なトラブルを起こされても困る。うーん、しょうがない。第2の試練、予定より早いけどやるか、、、。』
そう呟いたかと思うと、

『第2の試練は各組対抗の魔法の勝負だよ!4対4で戦ってもらうよ♪今回は、魔法の勝負だよ〜っていう緩い感じで街の人にも観てもらうことにしてあるから、そこは注意してね。それでは1週間後にまた!』
そういって消えた。

「だそうだから、私と勝負するのは、試練の時まで待ってくれる?トラブルを起こして、順位がお互いに下がるのは避けたいでしょ?」
「、、わかったわ。1週間後が楽しみね!」
そう言って、麻生夏は去った。

 入れ違いになるように、深沙と、そして洪太と涼がやってきた。
「あれ、夏は?春香、さっきのアリアナの話、聞いた?」
「あの子なら、さっき別れたけど。アリアナの話なら聞いてたよ。第2の試練が1週間後にあるって話だよね」
「なんで春香は平気そうにしてるんだよ、あいつに何言われたんだよ、トラブルになりかねないぞ」
「大丈夫。魔法で勝負をしようって持ちかけられたけど、試練の日まで延期になったから。何もされてないし、言われてないから安心して。」
顔に動揺が出ていないかが心配だ。感情を顔に出さないようにするのは大変だ。これ以上の心配はかけられない。

「ほんとに大丈夫だから、ね?それより、洪太、私に魔法を教えてよ。戦いをすることになるなら、私、実力不足だから。」
「うん。そうだね、早く帰って、明日から練習の時間を作ろうか。」
なんでか、洪太の返事が上の空だったように思えた。気のせいだろうか。