私は街外れの廃神社にたどり着いた。
 やっぱり生レイミちゃんは可愛いいなぁああ!
「あなた、どうやってここにたどり着いたのですか? ここにはストーカー対策用に神すら欺く結界が張ってあるのですよ?」
「例え神や仏や悪魔やストーカーを欺けても、生レイミちゃんの匂いと気配を覚えた私は欺けないということね」
 レイミちゃんの穢れなき気配と神聖な匂いは昨夜対面した時に脳にインプットした。
 だから、間違えるはずもない。
「何勝ち誇った顔をしているんですか気持ち悪い」
 マネージャーさんは引き気味だ。
 でも、これもすべてレイミちゃんへの愛ゆえにだからしかたないよねぇ?
「てか、マネージャーさん? 神を欺く結界を張るってあなたは一体……」
「レイミ、この女は危険です。何か起こる前に私が始末しましょうか?」
「え、ええ……っと、ここは穏便にお帰りいただくのが……」
 レイミちゃんの提案を聞いてないのかマネージャーさんの片手に大きな鎌が出現した。
「ちょ、ちょっと! 何なのその鎌は! 反則でしょ! てか、あなた何者なのよ!」
 私も一応お祓い棒を構えて対峙する。
 同業者? 同業者なの? レイミちゃんを不埒な悪霊から守るために契約したとか? でも除霊に大鎌なんて……まるで死神じゃない!
 一触即発な私達の間にレイミちゃんが割り込んだ。
「やめてくださいしーちゃん! 夜橋さんも駄目です! しーちゃんは死神なんです! 勝てるわけないです!」
 ああ! 生レイミちゃんが私のために争わないで! って言ってるううう! やっぱり推しが言うとチープなセリフもドラマのワンシーンのように聞こえる。
 あれ、でもなんかレイミちゃんおかしなことを……。
「レイミちゃん 死神って。このマネージャーさん死神なの?」
 言われてみれば、長い黒髪に黒いスーツに、全体的な黒に、空けるような白い肌。そして身の丈以上の大鎌……死神っぽい。
 マネージャーさんはため息をついた。
「レイミ。それは言わない約束では? まあ、別に破ったからって何かペナルティがあるわけではないですが」
「あ……。ご、ご、めんなさいしーちゃん。私……つい」
 マネージャーさんはレイミちゃんの頭を撫でた。
 あ、レイミちゃんに触れてるってことは確かに人間技じゃない。除霊師の私でもお祓い棒を介さないと霊に触れられ(殴れ)ないのに……そんなことより生レイミと触れ合えるなんてうらやましすぎるうきぃいいい!
「な、なんで、死神がレイミちゃんと一緒に行動してるの、よ」
 悔しさを押し込めて、尋ねる。すると何か口ごもるレイミちゃんの代わりに、マネージャーさんがさらりと言った。
「この子は生前アイドルの卵でした。ですがうっかりトラックに轢かれて死んでしまったのです。本来私は死者を導く立場にあるのですが……レイミの歌に惚れていたので、死神という職権を乱用し、彼女の未練を果たすという約束を交わして彼女のマネージャーになったのです。あ、それとしーちゃんという名前はレイミに名付けてもらいました。ふふ」
 こいつ、今私にほくそ笑んだ? 
 どや顔してない? なにこの死神? 一ファンには到底たどり着けない領域にいるからって調子に乗って……あだ名付けてもらえるの羨ましすぎて吐きそうなんだけど。
 精神的ダメージを受けた私は立ち眩みを覚えたが、同時に天啓を得た。
「はっ!? そうよ、死神にマネージャーが出来るんだから、除霊師がマネージャーやってもいいわよね? ということでくたばれ死神イイ!」
 一足で懐に飛び込み、お祓い棒の先端を突き出す私。
「ふ、あなたからは同じ匂いを感じていました。同じレイミストとして、受けて立ちましょう」
 マネージャーさんは大鎌の柄で私の突きを受け止める。衝撃波が廃神社内を吹き抜ける。
「二人ともやめてくださいッッッ!」
 やり合い始めた私達にレイミちゃんが大声で怒鳴った。