☆美月・その後
コンテストで下の方の賞だったけれど、受賞して絵が展示される事になった。
自分の絵がこんな風に飾られるなんて。
嬉しさと緊張が交差して心が落ち着かなかった。
ちょうどその会場にいた時、私の絵をみてくれていたお婆さん2人組が
「綺麗ねぇ……温かい気持ちになれるねぇ」
と、褒めてくれていた。
こんな私が描いた絵でも、誰かにそう思ってもらえることが出来るんだ!
私の描いた絵が誇らしい気持ちで、堂々と壁に飾られているように感じた。
このコンテストで自信を持ち、どうしようか迷っていた個展を開いてみようと決心した。
「お母さん、私個展開くから見に来てね!」
子供が産まれてから、子育ての大変さを知り、きっと母も大変だったんだろうなぁって考えた。私は気難しい子供で夜泣きも凄かったらしいし。そんなことを考えていたらある日、急に連絡をしたくなった。
以前は自分のことを話すのが嫌だったし、必要な時以外連絡をしたくなかったけれど。母とは今は少しずつだけど、距離は縮まっている……気がする。
「さて、準備しよう!」
長いテーブルの上に並べられた額縁に入っている絵。数ある中から飾る絵を1枚選ぶ。
大人になってから母校で蒼空と大和が無邪気な笑顔でサッカーをしている絵。
別の絵も順番に飾っていった。
そして、雪が降っている海の風景の中に満月を見上げている3人の後ろ姿が描かれた絵を最後に飾った。
自分の手で飾られた最後の絵を見ていると、何故か長く夢見ていた願いが叶った気がした。
(絵を飾る時、美月の手にはガラスで切った深い古傷の後がうっすらとあった)
「大和と美月の子供を俺が育ててる、とても不思議な夢をみたんだ」
あれから数年たったある日、蒼空は言った。
「その子、めちゃくちゃ可愛くて愛おしくてたまらなかった」
僕はその話を聞いてとても幸せな気持ちになった。
その日の夜、僕も夢をみた。
真っ白な雪景色。
美月と蒼空が3歳くらいの小さな女の子を間に挟んで3人で手を繋ぎ、幸せそうに歩いている。
雪と星の明かりに照らされている家族を、後ろから僕は、そっとみている。
すぐにその小さな女の子は、僕の子だと分かった。
蒼空がその子を高い高いして
「世界で1番好き。愛している!」
と、叫ぶと
女の子がきゃっきゃと笑い
「私もパパが1番好き!」
と、叫んだ。
「え! 私は?」
美月が言った。
3人が笑っている。
それから
「夢の中に出てくるパパも大好き」
その子はこっちを向いてそう言った。