「ひゃあっ」

 虹子は変な声を出してオレの腕にしがみついた。

「もおお……かっこよすぎて無理」

 付き合っているはずなのに、いまだに反応がヲタクのそれだ。
 ま、そこが虹子らしいんだけどね。

「これからもっと有名になって人気になってファンが増えて、どんどん私から遠くなってっちゃうんだああ」

 あと、妄想力高めで時々我を忘れる。

「そんなことないよ」
「1年後も同じことが言えるんですか??」
「……言え、るよ」

 やけにリアルな数字と酔っぱらいみたいな絡み方に、笑いをこらえるのに苦労する。 
 なんかのスイッチを押しちゃったかな……
 ゲームのことになると人が変わったように凛々しくなるけど、不安になると被害妄想キャラになるのかもしれない。
 本当に、キミといると飽きないな。

「オレは、虹子とずっと一緒にいたいと思ってるよ」
「私だって思ってます!」
「ありがとう。嬉しいよ」
 
 寄りかかってくる虹子の背中を撫でる。

「つらくない?」

 揺れる船上と吹き付ける風に、そろそろ船内へ戻ろうかと言おうとして。
 
「大丈夫です。騒いでごめんなさい」
「ううん」
 
 オレは言葉を呑み、恥ずかしげにうつむいた虹子のあごを持ち上げた。

「虹子、大好きだよ」

 とろけるようなキスを終えると、キミは大きな目をそっと細めた。
 
「海くん、大好き」

 その幸せそうな笑顔に、オレは。

 何度でも、恋をするんだ――


                     終