「約束」
「え?」
「ここにするって、もちろん覚えてるよね?」

 虹子のやわらかい唇に人差し指を当てると、彼女はぎゅっと目をつむった。
 マジで可愛いな……
 固まったままキスを待っている姿が初々しくて、つい焦らしたくなる。
 
「ふっ」

 待ちきれずに片目を開けた虹子に、我慢できなくて笑いがもれてしまった。

「な、なんで笑うんですか?」

 瞳を潤ませ、彼女はオレの胸に顔をうずめた。

「ごめん。可愛いすぎて」

 小さな体を抱きしめて幸せをかみしめる。

「海くん、ありがとう」

 涙声に、オレは虹子の澄んだ目を見つめた。
 
「お礼を言われるようなこと、したかな?」
「大会に出てくれたのはお兄ちゃんのためだって聞きました」
「春渡がそう言ったの?」
「はい。自分の夢を背負わせたかもって、最初の頃は悩んでたみたいだけど……今は感謝しかないって」

 あいつがそんな風に思ってたなんて……ちょっと驚き。

「そっか。春渡は夢に一歩近づけたかな?」
「もちろんです」
「なら良かった」

 ホッと息をつくと、虹子が不思議そうに見つめてきた。

「なに?」
「えっ? あの……どうしてそんなに頑張ってくれたのかなって思って」

 今さらな質問だったけど、オレは彼女の唇を親指で撫でた。

「そんなの、虹子にかっこいいとこを見せたいからに決まってんじゃん」