『もう家に向かってるの?』

 残念そうに聞こえるのは、私の耳が都合いいだけ?

「いえ。まだ駅の近くにいます」

 ほんの少しの期待を、言葉に乗せて。

『帰りたい?』
「…………」
『会いたいって言ったら迷惑?』
「そ、そんなことないです!」
 
 探るような質問に即答する。

「良かった」

 すると、背後から声がして。

「遅れてごめん」

 優しい声に、なんだかとても安心した。

「さっきの、見てたでしょ?」
「私がいたこと、気づいてたんですね」

 背中合わせになり、スマホを通して会話を続ける。

「どこにいたって、ニコちゃんを見つけられる自信あるよ?」
「な、なんで……そんなこと言うんですか?」

 うっかり、勘違いしそうになるよ……

「キミが大切だからだよ」
「!!」

 頭上から直接声がして、後ろから抱きしめられた。

「か、からかわないでください」

 身を固め、スマホを握りしめる。
 
「冗談じゃないよ。オレがどれだけキミに助けられてるか、知らないでしょ?」

 耳に息がかかって気が遠くなりそうで、カイくんの腕にしがみつく。

「私が助けたって? どういう、ことですか?」

 体が異常に熱くなり、息も絶え絶えになって。スマホを取り落としてしまった。