「なんで今日はここまで来たの?」
「おかげで一緒に帰れたからいいケド」
「とりまカラオケ行こ」
「さんせーい」
 
 嫌でも黄色い声が聞こえてきて、壁の一点を見つめる。

「行かねーよ」

 すると、ぶっきらぼうな声が耳に届いた。
 どうしよう、近くに来ちゃったけど……やり過ごせるかな?

「ついてくんなって言ってんだろ」 

 カイくんの声だけど……違う人みたいな冷めた話し方が気になって振り向きかける。
 
「怒んないでよ〜」
「何ピリピリしてんの?」

 そこに彼女たちの声がして私はそれをぐっと堪えた。

「おまえらのせいだろ?」

 いつもの穏やかなカイくんからは想像できないほど冷淡な口調。
 
「だって、カイ付き合い悪いんだもん」
「たまにはいいでしょ?」
「まんざらでもないクセに」
「ねー、行こうよ」
 
 それにひるむことのない甘い声音たちに、胸がぎゅっと苦しくなった。

「わかった」

 呼吸を整える気配が、すぐ後ろで感じられる。私は、気づかれないように身を縮めた。

「オレについてこれたらな」

 そう言うと、背後で風が巻き起こった。

「ちょっ、どこ行くの!?」
「えっ、何、どゆこと?」
「早く追いかけないと見失っちゃうよ」
「え〜、走るの?」