「なんでもないよ。ありがとう、晴渡(はると)

 レッドさんは少し照れたように首筋を掻き、イスから落ちて座り込んだ私に手を差し伸べた。
 というか、なんのお礼?

「ゲーム、再開しようか」

 手を取って立ち上がるとレッドさんは微笑んだ。

「は、はい?」

 握った手を離さない彼に、首をかしげる。

「レッドさん?」
「んー……今、ちょっと本名で呼んでほしくなっちゃったな」
「へっ!?」

 手を恋人つなぎに組みかえられ、再び腰を抜かしそうになる。

「オレ、(かい)っていうんだ。だからネット以外ではカイって呼んで?」

 私を、さっそうと支えた彼が微笑んだ。

「えっ……カイさん?」
「さん付けはやめよ?」
「で、でも、年上だし」
「別にいいんじゃないの?」

 私たちのやりとりを見ていた兄が面倒くさそうに合いの手を入れた。
 
「ほら、お兄ちゃんもそう言ってることだし」

 これは、断りづらい流れだ……

「じゃ、じゃあ。カイくん?」
「それ、いいね」

 控えめに言ってみたら、彼は照れて顔を赤くした……ように見えた。

「はい。決まったところで、始めるよ」

 兄がパンと手を叩き、カイくんはパッと手を離した。 
 一体、なんだったの?
 おもしろがってるんじゃないの?
 兄にはよく、ニコは反応がおもしろいって言われるから……ずっと、そういうことだと思ってたんだけど。カイくんがあんな反応するから、わからなくなる。