「まあ、こんな感じかな」

 何回かマッチに入り最後にナンバーワンを獲ると、ふたりはヘッドホンを外した。

「ニコちゃん、どうだった?」
「っ!!」

 レッドさんが振り向いて、至近距離で目が合ってしまった。

「か……」
「蚊?」

 レッドさんの真剣な横顔がかっこよかった、とは言えない。

「カオス」
「ふはっ」

 苦し紛れに思いついた言葉を出すと右隣の兄が笑い声を上げた。

「確かに、最後の方はカオスだったね」

 レッドさんは大真面目な顔でうなずいている。

「いえ、あの……」
「ちょっと休憩するか。俺、トイレ行きたい」

 口ごもると、兄が助け舟を出してくれた。

「出て右の突きあたりにあるよ」
「オッケー」

 部屋を後にする兄の背中を眺めて、ふと気づく。
 ふ、ふたりっきりなんですけど……!

「ニコちゃん、やってみる?」
「えっ、何をですか!?」

 いきなりそんな、心の準備が……

「キーマウでやったことないって言ってたでしょ?」

 振り向くと、レッドさんは立ち上がっていた。
 あ、ゲームのことか……
 激しい勘違いに顔が熱くなる。今の一瞬で色々と妄想してしまった。自分が怖い。

「は、はい」

 私はおそるおそる、レッドさんが座っていたチェアに腰を下ろした。
 レッドさんのぬくもりが残ってる。なんか、恥ずかしい……
 ナチュラルに自分が座っていた方へ誘導するなんて、私をからかって遊んでいるようにしか思えない。