今回買い取った土地は、東に山がある。南には深い森、西には断崖絶壁と荒れた海。北部だけは平地が開けているので曖昧だが、それらがリィトの土地の境界線ということになっている。

「ま、近くに誰も住んでいないけどルールは守っておいたほうがいいからね」

 土地を勝手に使うのは、当然よろしくない。

 悪目立ちすることは避けたいし、そもそも買った土地だけでも広大だ。焦って権利のない土地まで手を伸ばす必要もない。

「せっかくだし、このチョロチョロ流れる泉を遡るか」

 東の山。

 見れば山肌にはある程度木々が茂っているようだし、もっと近くに寄れば土地の状況も少しはマシだろう。

 植物魔導で土質改善をすることもできるが、なんでもかんでも魔法頼みじゃ芸がない。

 テントを畳んで、リィトは歩き出す。

 牛車もない徒歩での移動は、久々のことだ。


 ◆


 数時間後。

 歩いても歩いてもたどりつかない東の山に、ちょっと心が折れそうだった。

「はぁ……はぁ……」

 やばい、死にそう。

 魔法で作り出した、いい感じの棒にもたれかかって大きく息をつく。余談だが、こういった冒険にはいい感じの棒が必要だ。拾うのがベストだが、この土地にある枯れ枝はどれも脆くて、冒険の相棒としてはちょっと頼りなさ過ぎた。

 東の山は、目の前だ。

 いや、すいぶん前から体感としては目の前だった。

 歩いても歩いても、ふもとまでたどり着かない。開けた平原と山の大きさのせいで距離感がバグっていたらしい。ふ、不覚。

「くぅ……きっついぞ……」

 さらには、先ほどからずっとなだらかな登り坂が続いている。

 この丘を超えれば、山の麓まではもうすぐだろう。

「ま、魔法で……全部やったら……つまらないし……」

 こういう苦労も楽しみのうち。

 そう言い聞かせる。

 ……いや、違うだろ。

 リィトは思い直す。

 ちょっとしたやり込みゲーマーだった前世でも、『やり込み』には時間をかけてもマップ上の移動に労力を費やしただろうか? いや、ない!(反語)

 折しも、自力で丘のてっぺんまで登りきったところだ。

「よし……やるか」

 ツル科の植物の種子を革袋から取り出して、足もとに蒔く。

「──すくすくと育て」
〈生命促進〉の魔法で、すぐに蔦が伸びていく。