*
二人の一ヶ月記念の日は金曜日だった。
なのでいつも通り、凛の家で一緒に晩ご飯を食べる。
今日はオムライスを作って一緒に食べた。かなり上手にできて凪は「美味しい!美味しい!」とニコニコ顔で言ってくれた。
「ねぇ、凛。これ見て」
「何?」
凪にパソコン画面を見せられると、そこには彼の新曲があった。題名は『希望』と記されている。「押して」と言われ、凛はゆっくりと再生ボタンを押した。
すると、ポップな曲が流れ始める。
「可愛い曲だね」
「夢を追いかける女の子がどんな困難にも負けずに頑張るって曲」
心配しないで、希望の光はあるよ。大丈夫だからね。
君はとても綺麗な花になれる。
好きな人の声が、言葉が、音楽に乗って伝わってきた。
これはきっと私に向けてくれた歌だ。苦しくてもう頑張りたくないって思ったときに聞ける最強の応援ソングだ。
「俺はね、自分の曲で誰かを笑顔にしたい。幸せにしたい。それは凛も入ってるんだよ?」
「うん……」
嬉しすぎて自然と涙が出てくる。こんなにも私のことを大切にしてくれる彼に出会えて、本当に幸せ者だ。
凛は嬉し泣きをしながら、満面の笑みで「ありがとう!」と凪に伝える。
凪も幸せそうな表情をしていた。
「ねぇ、凛」
凪は凛の手を取り、小指を絡ませた。
「なに?凪くん」
「俺は誰かを幸せにできるアーティストになりたい。凛は?」
「私は誰かの心を少しでも暖かくできる役者になりたい」
「約束しよう。俺たちは絶対に!!夢を叶えるーー」
「うん!」
ゆびきりげんまん、ウソついたら、はりせんぼん、のーます!ゆびきった!
この約束があれば、私はどんなに苦しくても頑張れるだろう。
凪くんは私のヒーローだから。強くて優しいヒーローだから。
彼の言葉が、行動が全て勇気を与えてくれる。
「凛、だーいすき」
凪はその大きな手で優しく凛を抱きしめた。ゆっくりと彼に身を預ける。
頭に手のひらの感触がした。優しい。優しすぎる。
この人の前では鎧を付けなくて良い。どんな私も受け入れてくれる。
大切にしなきゃ……この幸せは当たり前じゃないんだ。
「こっち見て」
「……⁉︎」
凪の顔がゆっくりと近き、二人は唇を重ねた。
王子様がお姫様にするような優しい口づけだった。凛の心臓は爆弾を抱えてしまったかのようにドクドクと激しく鼓動している。
は、恥ずかしい……!でも、嬉しい……こんな風に心がぐちゃぐちゃになるのは初めてだなーー。でも、悪くはない。
本当に凪くん、かっこいいな。大好きだな。ずっとずっと一緒に居たいな。
彼の顔を見上げる。凪くんはくすくすと笑ってまた頭を撫でてくれた。
「凪くん……大好きだよ。私、ものすごく幸せだよ……」
「俺もすっごく幸せ。凛と付き合えて良かった」
二人はまた、優しく口づけを交わした。
*
朝目覚めると、横には大好きな人が静かに眠っている。手は繋いだままで凪の体温が直接伝わってくる。ちょっぴり熱くて、でもほんのり暖かい。凛はその温度が心地よくて二度寝をしてしまいそうだった。
寝顔が可愛い彼を起こさないように凛はそっと起き上がった。
さてと、これから朝ごはんの準備をしなくては。
二枚の食パンをトースターにセットする。ちなみにトースターはポップアップ式の物だ。あの、ぽんって出てくるタイプの。
フライパンを準備し、ベーコンと目玉焼きを焼いていった。ジュージューと聞こえてくるその音は朝を象徴するようで、その音で凪はゆっくりとベッドから起き上がった。眠たい目を擦っている。
「凪くん!おはようー朝だよ」
「おはよう。やばい、めちゃ寝てた?」
「今日は土曜日だから、もっと寝てても良かったんだよ?私、今日稽古ないし」
「そっか。でも、依頼の仕事片付けないとだから、朝ご飯食べたら行かなくちゃ」
「おっけーちょっと待ってね。先に顔洗っといたら?」
「そうする。ありがとう」
トーストが二枚一緒になって起き上がってくる。その二枚を取り出し、少し大きめのワンプレートのお皿に乗せた。ベーコンと目玉焼きも良い感じで焼けてくる。それも見栄え良く載せる。
朝食を代表するような食べ物たちを乗せた皿を小さなテーブルに並べていく。冷蔵庫からはマーガリンといちごジャムを出した。本当はバターが良いけど、毎月買う余裕はないのでマーガリンだ。
「凪くん、できたよ」
「うわ、おしゃれ〜なんかカフェの朝ごはんみたい」
「それを目指しました〜」
二人で手を合わせて「いただきます」と言った。この言葉がこんなに特別に感じる日が来るなんて思いもしなかった。
いつか、当たり前のように「おはよう」や「いただきます」この何気ない会話をできるような生活をしたい。
「凪くん、トーストに乗っけるのバターといちごジャムどっちが良い?」
「うーん。じゃあ、いちごジャムで!」
「はい。どうぞ!」
「ありがとう」
朝ごはんが食べ終わった後、凪は急いで準備をする。
「今日も頑張ってね」
「ありがとう。行ってきます」
「行ってらっしゃ……い?」
手を振って見送ろうとした凛は急にその手を止めた。
唇に優しい感触ーー。凛の背丈に合わせて屈んだ凪にキスをされたからだ。
突然の出来事に凛は頬を一気に赤らめる。一瞬だけ……一瞬だけ、彼と同棲したらこんな感じなのかなと我ながら恥ずかしい妄想をしてしまった。
「行ってきまーす!」
素敵な笑顔の凪は今日も夢に向かって進んでいた。
*
観客からの歓声を凪はバンドメンバーと共に浴びていた。
そんな彼の姿を凛は一番後ろの席で見つめ、うっとりとする。
「皆さん!今日は俺たちのライブに来てくださり、ありがとうございました!」
心が震えた。やはり、大好きな音楽の世界に居る彼は誰よりも輝いてみえる。
そんな彼が大好きだ。好きなことに一生懸命で、それでも恋人も大切にしてくれる彼が凛は心の底から大好きだった。
大好きな人と過ごせて、大好きな親友とも遊べて、大好きな演技にも向けあえて、私は幸せ者だ。感謝してもしきれないほどに。
全部大切にしたい。これからもずっと失くさないように大切にしていこうーー。
「凛、待っててくれてありがとう」
「うん。じゃあ、帰ろっか!」
二人は今日のライブの話をしながら、一緒に手を繋いで帰った。
話が尽きることはなかった。永遠と会話が繰り広げられる。
途中でお店に入って、タピオカを買って飲んだ。
相変わらず凪はタピオカを飲むときはハムスターみたく頬を膨らませる。
凛の家に着くと今日は凪がライブを頑張ったご褒美に彼の大好物であるしょうが焼きを作った。凪はしょうが焼きを写真に収め、よく味わって食べていた。
「すごいお腹空いてたから、胃に染みるわ〜美味しい」
「良かったーあ、もやしのナムルもあるけど食べる?」
「うん!食べる!!」
可愛い……。凪の輝かしい表情に思わず心の中で呟いてしまった。
ライブでは大人でかっこいいのに日常では少し子どもっぽい表情をするそのギャップもたまらなく好きだった。
「そういえば、もう少しで夏休みだよね」
しょうが焼きを頬張りながら、凪は言う。
「確かに!凪くんは忙しいの?」
「前半は依頼の仕事とあと事務所のオーディションあるから忙しいけど、後半は基本暇かも。凛は?」
「私は所々稽古あるけど、ガッツリあるのは前半だけで、後半は休み多いよ」
「じゃあ、夏祭りに行こうよ」
「え、良いね!すごく行きたい!!」
「後はねーー」
それから二人は夏休みの計画を立てた。美味しい焼き肉やお寿司を食べに行こう。カラオケに行こう。付き合う前に行って、ケーキが食べれなかったあのカフェにまた行こう。
「お互い忙しくて中々一緒に過ごせないけど、夏休みは沢山写真を撮って思い出作ろうね」
「うん!!」
そんな楽しい計画と約束。それが忙しい日々を乗り越えた先にあるのかと思うと頑張ることができた。
私の人生は充実している。とても充実しているんだ。
なのに奪われるときは一瞬だった。
私はせっかく決まった舞台を降板しなければならなくなったのだ。
二人の一ヶ月記念の日は金曜日だった。
なのでいつも通り、凛の家で一緒に晩ご飯を食べる。
今日はオムライスを作って一緒に食べた。かなり上手にできて凪は「美味しい!美味しい!」とニコニコ顔で言ってくれた。
「ねぇ、凛。これ見て」
「何?」
凪にパソコン画面を見せられると、そこには彼の新曲があった。題名は『希望』と記されている。「押して」と言われ、凛はゆっくりと再生ボタンを押した。
すると、ポップな曲が流れ始める。
「可愛い曲だね」
「夢を追いかける女の子がどんな困難にも負けずに頑張るって曲」
心配しないで、希望の光はあるよ。大丈夫だからね。
君はとても綺麗な花になれる。
好きな人の声が、言葉が、音楽に乗って伝わってきた。
これはきっと私に向けてくれた歌だ。苦しくてもう頑張りたくないって思ったときに聞ける最強の応援ソングだ。
「俺はね、自分の曲で誰かを笑顔にしたい。幸せにしたい。それは凛も入ってるんだよ?」
「うん……」
嬉しすぎて自然と涙が出てくる。こんなにも私のことを大切にしてくれる彼に出会えて、本当に幸せ者だ。
凛は嬉し泣きをしながら、満面の笑みで「ありがとう!」と凪に伝える。
凪も幸せそうな表情をしていた。
「ねぇ、凛」
凪は凛の手を取り、小指を絡ませた。
「なに?凪くん」
「俺は誰かを幸せにできるアーティストになりたい。凛は?」
「私は誰かの心を少しでも暖かくできる役者になりたい」
「約束しよう。俺たちは絶対に!!夢を叶えるーー」
「うん!」
ゆびきりげんまん、ウソついたら、はりせんぼん、のーます!ゆびきった!
この約束があれば、私はどんなに苦しくても頑張れるだろう。
凪くんは私のヒーローだから。強くて優しいヒーローだから。
彼の言葉が、行動が全て勇気を与えてくれる。
「凛、だーいすき」
凪はその大きな手で優しく凛を抱きしめた。ゆっくりと彼に身を預ける。
頭に手のひらの感触がした。優しい。優しすぎる。
この人の前では鎧を付けなくて良い。どんな私も受け入れてくれる。
大切にしなきゃ……この幸せは当たり前じゃないんだ。
「こっち見て」
「……⁉︎」
凪の顔がゆっくりと近き、二人は唇を重ねた。
王子様がお姫様にするような優しい口づけだった。凛の心臓は爆弾を抱えてしまったかのようにドクドクと激しく鼓動している。
は、恥ずかしい……!でも、嬉しい……こんな風に心がぐちゃぐちゃになるのは初めてだなーー。でも、悪くはない。
本当に凪くん、かっこいいな。大好きだな。ずっとずっと一緒に居たいな。
彼の顔を見上げる。凪くんはくすくすと笑ってまた頭を撫でてくれた。
「凪くん……大好きだよ。私、ものすごく幸せだよ……」
「俺もすっごく幸せ。凛と付き合えて良かった」
二人はまた、優しく口づけを交わした。
*
朝目覚めると、横には大好きな人が静かに眠っている。手は繋いだままで凪の体温が直接伝わってくる。ちょっぴり熱くて、でもほんのり暖かい。凛はその温度が心地よくて二度寝をしてしまいそうだった。
寝顔が可愛い彼を起こさないように凛はそっと起き上がった。
さてと、これから朝ごはんの準備をしなくては。
二枚の食パンをトースターにセットする。ちなみにトースターはポップアップ式の物だ。あの、ぽんって出てくるタイプの。
フライパンを準備し、ベーコンと目玉焼きを焼いていった。ジュージューと聞こえてくるその音は朝を象徴するようで、その音で凪はゆっくりとベッドから起き上がった。眠たい目を擦っている。
「凪くん!おはようー朝だよ」
「おはよう。やばい、めちゃ寝てた?」
「今日は土曜日だから、もっと寝てても良かったんだよ?私、今日稽古ないし」
「そっか。でも、依頼の仕事片付けないとだから、朝ご飯食べたら行かなくちゃ」
「おっけーちょっと待ってね。先に顔洗っといたら?」
「そうする。ありがとう」
トーストが二枚一緒になって起き上がってくる。その二枚を取り出し、少し大きめのワンプレートのお皿に乗せた。ベーコンと目玉焼きも良い感じで焼けてくる。それも見栄え良く載せる。
朝食を代表するような食べ物たちを乗せた皿を小さなテーブルに並べていく。冷蔵庫からはマーガリンといちごジャムを出した。本当はバターが良いけど、毎月買う余裕はないのでマーガリンだ。
「凪くん、できたよ」
「うわ、おしゃれ〜なんかカフェの朝ごはんみたい」
「それを目指しました〜」
二人で手を合わせて「いただきます」と言った。この言葉がこんなに特別に感じる日が来るなんて思いもしなかった。
いつか、当たり前のように「おはよう」や「いただきます」この何気ない会話をできるような生活をしたい。
「凪くん、トーストに乗っけるのバターといちごジャムどっちが良い?」
「うーん。じゃあ、いちごジャムで!」
「はい。どうぞ!」
「ありがとう」
朝ごはんが食べ終わった後、凪は急いで準備をする。
「今日も頑張ってね」
「ありがとう。行ってきます」
「行ってらっしゃ……い?」
手を振って見送ろうとした凛は急にその手を止めた。
唇に優しい感触ーー。凛の背丈に合わせて屈んだ凪にキスをされたからだ。
突然の出来事に凛は頬を一気に赤らめる。一瞬だけ……一瞬だけ、彼と同棲したらこんな感じなのかなと我ながら恥ずかしい妄想をしてしまった。
「行ってきまーす!」
素敵な笑顔の凪は今日も夢に向かって進んでいた。
*
観客からの歓声を凪はバンドメンバーと共に浴びていた。
そんな彼の姿を凛は一番後ろの席で見つめ、うっとりとする。
「皆さん!今日は俺たちのライブに来てくださり、ありがとうございました!」
心が震えた。やはり、大好きな音楽の世界に居る彼は誰よりも輝いてみえる。
そんな彼が大好きだ。好きなことに一生懸命で、それでも恋人も大切にしてくれる彼が凛は心の底から大好きだった。
大好きな人と過ごせて、大好きな親友とも遊べて、大好きな演技にも向けあえて、私は幸せ者だ。感謝してもしきれないほどに。
全部大切にしたい。これからもずっと失くさないように大切にしていこうーー。
「凛、待っててくれてありがとう」
「うん。じゃあ、帰ろっか!」
二人は今日のライブの話をしながら、一緒に手を繋いで帰った。
話が尽きることはなかった。永遠と会話が繰り広げられる。
途中でお店に入って、タピオカを買って飲んだ。
相変わらず凪はタピオカを飲むときはハムスターみたく頬を膨らませる。
凛の家に着くと今日は凪がライブを頑張ったご褒美に彼の大好物であるしょうが焼きを作った。凪はしょうが焼きを写真に収め、よく味わって食べていた。
「すごいお腹空いてたから、胃に染みるわ〜美味しい」
「良かったーあ、もやしのナムルもあるけど食べる?」
「うん!食べる!!」
可愛い……。凪の輝かしい表情に思わず心の中で呟いてしまった。
ライブでは大人でかっこいいのに日常では少し子どもっぽい表情をするそのギャップもたまらなく好きだった。
「そういえば、もう少しで夏休みだよね」
しょうが焼きを頬張りながら、凪は言う。
「確かに!凪くんは忙しいの?」
「前半は依頼の仕事とあと事務所のオーディションあるから忙しいけど、後半は基本暇かも。凛は?」
「私は所々稽古あるけど、ガッツリあるのは前半だけで、後半は休み多いよ」
「じゃあ、夏祭りに行こうよ」
「え、良いね!すごく行きたい!!」
「後はねーー」
それから二人は夏休みの計画を立てた。美味しい焼き肉やお寿司を食べに行こう。カラオケに行こう。付き合う前に行って、ケーキが食べれなかったあのカフェにまた行こう。
「お互い忙しくて中々一緒に過ごせないけど、夏休みは沢山写真を撮って思い出作ろうね」
「うん!!」
そんな楽しい計画と約束。それが忙しい日々を乗り越えた先にあるのかと思うと頑張ることができた。
私の人生は充実している。とても充実しているんだ。
なのに奪われるときは一瞬だった。
私はせっかく決まった舞台を降板しなければならなくなったのだ。