ぱたん、と音を立てて雫玖くんが扉を閉めると同時に、私のすべての感情が切れてしまったのだろうか。よくわからないけれど、涙腺だけは確実にぶっ壊れたのだけは確かだろう。
ぼとぼと、と重い涙の粒が、顔を伏せていたせいか垂直に床に向かって落ちていき、水滴が地面ではじけてそのまま着水した。
唇をかみしめて、必死に泣き声を上げないようにこらえた。
「曙美さん、座ろうか」
共同スペースの壁に沿うように、ここにはソファが置かれている。雫玖くんの言葉に頷いて、ゆっくりと腰かけた。
それと同時に、私の目の前に誰かが立っているのが分かった。足元を見るだけでわかる。ゆっくりと顔を上げれば、そこに居たのは案の定このりだった。
彼は真っすぐと私を見下ろしていた。だが、その目つきはどこか冷めており、ぞくりと背筋が凍ったような気分がする。
「あいつ等に泣かされたのか」
あいつ等とは両親のことを示すのだろう。何も答えないでいると、沈黙は肯定と悟ったのか、彼は小さく舌打ちをしてから、共同スペースに入ろうとする。
「このりさん待って!」
静止の声をかけたのは雫玖くんだった。そんな彼の静止に、不機嫌そうにこのりは睨みつける。
「なんで止めるんだ」
「今、俺の両親が話している。だから、大丈夫だ」
「……お前も、大丈夫じゃなさそうなのにな」
ハッ、と小さく意地の悪い笑みをこぼしながら、彼はスペースに入ることをあきらめ、私の隣に腰かけた。
「それで、お前はどうしたい?」
「どう、したい……?」
「ああ、お前の気持ちをぶちまけてみろ」
このりはいつの日かのように、私の胸元に指をあてて、にやりと少しだけ維持の悪い笑みを浮かべた。
「私は、昨日も言ってたけど、両親に認めてもらいたかった……」
「うん」
雫玖くんが頷き、このりの手がゆっくりと離れていった。
「なのに、私、両親に酷い事言った」
「……傷ついたのは自分なのに、またさらに自分を責めるんだな?」
このりの言葉を聞いて、思わず彼の方へ顔を向ける。彼は少し呆れていたのか、小さく溜息を吐いた。
思わず胸元に手を添えて、そこに目をやる。
親の言葉で血まみれになった心臓を、更に己で傷つけようとしている。それが酷く虚しい物で、意味の無いことなのか。このりはそう言いたいのだろう。
指先に力を籠める。
「私、怒ってよかったのかな」
「良いんだよ」
間もあけずに、雫玖くんが答えた。
「自分が耐えればいいと、あきらめないで。嫌だったら否定していい。嫌なものは嫌だと、はっきり言えるようにならないとだめだ」
「……」
「人間、誰だって怒る権利はある。己の意見を主張する権利を持ってる。相手が誰であろうと。自分自身を守るために」
「……うん」
「正直ね、君が怒号を上げた時『ああ、やっと本音を言えたんだ』って嬉しいと思った自分が居るんだ。最低かな」
「そんなこと、ないよ」
「ただ、ちょっと言葉はきつかったかもだけどね」
少し苦笑いを浮かべて彼は言う。そんな彼の表情を見て、私もつられて苦笑いを浮かべた。
「そうかも」
「それじゃあ、それだけ謝ればいいさ」
このりはそういうと、私と雫玖を続けて目線移動させた。
「今のお前ならもう大丈夫だ。頼れる相手はもう増えたんだ。心の支えや味方が増えたんだ。それこそお前が成長している証拠だ」
頼れる相手。心の支えや味方。
小さく呟けば、彼はこくりと頷いた。そう、だ。私は、少し前の私とは違って、支えてくれて頼れる味方ができた。ちはるに、アオさんにナツさん、このり、そして雫玖くん。
私は、成長できたんだろうか。
小さく呼吸をして、ぽつりと重い口を開いた。
「雫玖くん、お願いがあるんです」
「うん」
「……私の背中を押してください」
ぼとぼと、と重い涙の粒が、顔を伏せていたせいか垂直に床に向かって落ちていき、水滴が地面ではじけてそのまま着水した。
唇をかみしめて、必死に泣き声を上げないようにこらえた。
「曙美さん、座ろうか」
共同スペースの壁に沿うように、ここにはソファが置かれている。雫玖くんの言葉に頷いて、ゆっくりと腰かけた。
それと同時に、私の目の前に誰かが立っているのが分かった。足元を見るだけでわかる。ゆっくりと顔を上げれば、そこに居たのは案の定このりだった。
彼は真っすぐと私を見下ろしていた。だが、その目つきはどこか冷めており、ぞくりと背筋が凍ったような気分がする。
「あいつ等に泣かされたのか」
あいつ等とは両親のことを示すのだろう。何も答えないでいると、沈黙は肯定と悟ったのか、彼は小さく舌打ちをしてから、共同スペースに入ろうとする。
「このりさん待って!」
静止の声をかけたのは雫玖くんだった。そんな彼の静止に、不機嫌そうにこのりは睨みつける。
「なんで止めるんだ」
「今、俺の両親が話している。だから、大丈夫だ」
「……お前も、大丈夫じゃなさそうなのにな」
ハッ、と小さく意地の悪い笑みをこぼしながら、彼はスペースに入ることをあきらめ、私の隣に腰かけた。
「それで、お前はどうしたい?」
「どう、したい……?」
「ああ、お前の気持ちをぶちまけてみろ」
このりはいつの日かのように、私の胸元に指をあてて、にやりと少しだけ維持の悪い笑みを浮かべた。
「私は、昨日も言ってたけど、両親に認めてもらいたかった……」
「うん」
雫玖くんが頷き、このりの手がゆっくりと離れていった。
「なのに、私、両親に酷い事言った」
「……傷ついたのは自分なのに、またさらに自分を責めるんだな?」
このりの言葉を聞いて、思わず彼の方へ顔を向ける。彼は少し呆れていたのか、小さく溜息を吐いた。
思わず胸元に手を添えて、そこに目をやる。
親の言葉で血まみれになった心臓を、更に己で傷つけようとしている。それが酷く虚しい物で、意味の無いことなのか。このりはそう言いたいのだろう。
指先に力を籠める。
「私、怒ってよかったのかな」
「良いんだよ」
間もあけずに、雫玖くんが答えた。
「自分が耐えればいいと、あきらめないで。嫌だったら否定していい。嫌なものは嫌だと、はっきり言えるようにならないとだめだ」
「……」
「人間、誰だって怒る権利はある。己の意見を主張する権利を持ってる。相手が誰であろうと。自分自身を守るために」
「……うん」
「正直ね、君が怒号を上げた時『ああ、やっと本音を言えたんだ』って嬉しいと思った自分が居るんだ。最低かな」
「そんなこと、ないよ」
「ただ、ちょっと言葉はきつかったかもだけどね」
少し苦笑いを浮かべて彼は言う。そんな彼の表情を見て、私もつられて苦笑いを浮かべた。
「そうかも」
「それじゃあ、それだけ謝ればいいさ」
このりはそういうと、私と雫玖を続けて目線移動させた。
「今のお前ならもう大丈夫だ。頼れる相手はもう増えたんだ。心の支えや味方が増えたんだ。それこそお前が成長している証拠だ」
頼れる相手。心の支えや味方。
小さく呟けば、彼はこくりと頷いた。そう、だ。私は、少し前の私とは違って、支えてくれて頼れる味方ができた。ちはるに、アオさんにナツさん、このり、そして雫玖くん。
私は、成長できたんだろうか。
小さく呼吸をして、ぽつりと重い口を開いた。
「雫玖くん、お願いがあるんです」
「うん」
「……私の背中を押してください」