思えば、彼には何時も迷いがなかった。その姿をかっこいいと、ただ単に尊敬していた私は知らなかった。彼のその迷いのなさに隠された、覚悟を……
「主ではないか! こんなところでどうした?」
「あ、お兄さん! 久しぶり!」
その日、ある発表のリーダーに選ばれ、緊張でいっぱいになっていた私の前に、彼は現れた。思わず歓喜の声を上げる私に、彼は爽やかな笑顔を浮かべた。
彼の名は『戦車』の正位置、カード番号は7、意味は『積極性・リーダーシップ・頼りがいのある人望』などで、彼自身の性格もあってか、男性・女性共に人気のある人である。常に優しく、力強い彼の姿はまるで『お兄さん』で、何時も彼を呼ぶときの愛称になっている。
「何かあったようだな、顔の筋肉が少々強張っているようだぞ?」
流石はお兄さん、なんでも御見通しのようだ。私は感心しながらも、彼に発表会のリーダーに選ばれたことを話した。話を聞き終えた彼は、唐突に私を抱き上げた。びっくりする私をよそに、彼は嬉しそうにしている。
「きゃっ……!」
「我が主がその様な名誉ある事柄に選ばれたと聞いて、黙っていられる筈がないであろう! 日頃の我が主の努力がこうして実を付けたのだ……私は大いに誇りに思うぞ、良くやった!」
お兄さんは自分の事のように私を褒め称え、高々と私を掲げていた。心底嬉しそうなお兄さんを前に、私は一層緊張と不安で溢れ返りそうになっていた。
「どうしたのだ、そのような浮かない顔をして」
「ううん、何でも無い。ただ……期待に応えられるかが不安で、どうしたらいいのか分からなくなって。それで悩んでるというか……弱いんだよね」
「……主よ、其れは些か異なると思うぞ」
私の言葉に、お兄さんは少し困った表情を浮かべた。異なるとは、一体何が違うのだろうか。
「何かに選ばれるということは、同時に何かを背負う覚悟を必要とされるということだ。それは容易に持てるものではない、故に主の力が弱いわけではないと私は思う。
私もそうだ、常に皆を導く立場にありながら、内心は震えているのだ。本当に自分の考えでいいのか、正しい選択を常に選べているのか……皆の意見をまとめ、取り仕切り、責任を背負う。それが如何に難しく重大であるのか……なったものにしか分からないものだ」
普段、堂々としているように見えるお兄さん……その裏ではだれにも相談できず抱え込んでいる弱い一面があった。常に自分と向き合い、自問自答を行ったうえでの重みのある選択。その選択の先に何が待ち受けていようとも、逃げることは許されない……そんな狭間に常に立たされながらも、人を背負い進んでいこうとする姿は、本当に感銘を受ける。
「私に、できるのかな……」
「主には私たちがついている、人に話せないようであれば私達に話せばいい。一人で背負うのではなく、私たちと共に進めていこう。
それは私には、なしえなかったものであるからな。我が主には、同じようにはなって欲しくないのだ。
共に進もう、選んでくれたものの感謝と、自身の挑戦心を胸に……!」
私が尊敬するお兄さんは、本当は誰よりも失敗を恐れる臆病で不器用な人。そんな人だからこそ、弱き心を持った人の心に寄り添い、励ますことができるのだろうと思う。
いつか、お兄さんのような人を支えられるような存在になりたいと、高らかな声を出して励ましてくれるお兄さんを見つめながら、そう思ったのだった。
「主ではないか! こんなところでどうした?」
「あ、お兄さん! 久しぶり!」
その日、ある発表のリーダーに選ばれ、緊張でいっぱいになっていた私の前に、彼は現れた。思わず歓喜の声を上げる私に、彼は爽やかな笑顔を浮かべた。
彼の名は『戦車』の正位置、カード番号は7、意味は『積極性・リーダーシップ・頼りがいのある人望』などで、彼自身の性格もあってか、男性・女性共に人気のある人である。常に優しく、力強い彼の姿はまるで『お兄さん』で、何時も彼を呼ぶときの愛称になっている。
「何かあったようだな、顔の筋肉が少々強張っているようだぞ?」
流石はお兄さん、なんでも御見通しのようだ。私は感心しながらも、彼に発表会のリーダーに選ばれたことを話した。話を聞き終えた彼は、唐突に私を抱き上げた。びっくりする私をよそに、彼は嬉しそうにしている。
「きゃっ……!」
「我が主がその様な名誉ある事柄に選ばれたと聞いて、黙っていられる筈がないであろう! 日頃の我が主の努力がこうして実を付けたのだ……私は大いに誇りに思うぞ、良くやった!」
お兄さんは自分の事のように私を褒め称え、高々と私を掲げていた。心底嬉しそうなお兄さんを前に、私は一層緊張と不安で溢れ返りそうになっていた。
「どうしたのだ、そのような浮かない顔をして」
「ううん、何でも無い。ただ……期待に応えられるかが不安で、どうしたらいいのか分からなくなって。それで悩んでるというか……弱いんだよね」
「……主よ、其れは些か異なると思うぞ」
私の言葉に、お兄さんは少し困った表情を浮かべた。異なるとは、一体何が違うのだろうか。
「何かに選ばれるということは、同時に何かを背負う覚悟を必要とされるということだ。それは容易に持てるものではない、故に主の力が弱いわけではないと私は思う。
私もそうだ、常に皆を導く立場にありながら、内心は震えているのだ。本当に自分の考えでいいのか、正しい選択を常に選べているのか……皆の意見をまとめ、取り仕切り、責任を背負う。それが如何に難しく重大であるのか……なったものにしか分からないものだ」
普段、堂々としているように見えるお兄さん……その裏ではだれにも相談できず抱え込んでいる弱い一面があった。常に自分と向き合い、自問自答を行ったうえでの重みのある選択。その選択の先に何が待ち受けていようとも、逃げることは許されない……そんな狭間に常に立たされながらも、人を背負い進んでいこうとする姿は、本当に感銘を受ける。
「私に、できるのかな……」
「主には私たちがついている、人に話せないようであれば私達に話せばいい。一人で背負うのではなく、私たちと共に進めていこう。
それは私には、なしえなかったものであるからな。我が主には、同じようにはなって欲しくないのだ。
共に進もう、選んでくれたものの感謝と、自身の挑戦心を胸に……!」
私が尊敬するお兄さんは、本当は誰よりも失敗を恐れる臆病で不器用な人。そんな人だからこそ、弱き心を持った人の心に寄り添い、励ますことができるのだろうと思う。
いつか、お兄さんのような人を支えられるような存在になりたいと、高らかな声を出して励ましてくれるお兄さんを見つめながら、そう思ったのだった。