「さぁ、レッスンの時間よ主!」
「スパルタ授業の始ま……いえ何も申しておりません失言です」
「今日のレッスンのお題は『茶葉』よ!」

 目があったら最後、地獄の授業の開始。目を合わせなくとも話しかけられたら最後。恋愛のエキスパートでもある彼女からは逃れられない。

 彼女の名は『恋人』の正位置、場合によっては『恋人達』と複数形で呼ばれることもある。カード番号は6、彼女は恋愛のエキスパートで、自身の経験から恋愛に対するアドバイスをくれる。
 主な意味は『居心地の良い関係・運命の出会い・相思相愛』など。恋愛の悩みを抱えているなら、真っ先に相談するべき人物である。
 そんな彼女から、百科事典並みに分厚い参考資料を手渡された私は、指示されたページをパラパラとめくる。そのページには様々なお茶の種類と味の特徴などが載っており、よく知るものからあまり馴染みのないものまであった。

「お題が茶葉か……何か楽しそう」
「あら珍しいわね、私のレッスンに積極的だなんて……関心ものだわ」
「普段は無糖珈琲だけど、たまに紅茶とか飲んでるからね」
「では基本的なことを聞くわ、茶葉の種類は?」
「えっと……紅茶とかならアールグレイとかプリンスオブウェールズとか、セイロンとか……」
「はぁ……全く分かっていないわね、根本的観念で言えば、茶葉はどれも同じ種類のお茶の木から作られているのよ?」

 その言葉に驚愕した。え、一緒……?

「あなたそんなことも知らずに今まで飲んでいたの?信じられないわ……」
「え、お茶の木っていつも飲んでるお茶と同じってこと?」
「そうよ、発酵方法を変えることで種類が変わっているだけで、根本的にはどれも同じなんだから。お茶は大きく分けると3つ、不発酵茶・発酵茶・半発酵茶。それぞれ代表的なものであげるなら、緑茶・紅茶・烏龍茶になるわね」
「そうなんだ……知らなかった」
「つまり紅茶は発酵する時に種類が決まるともいえるわね。原点は同じでも、そこから手が加わることで様々な姿に進化を遂げるということよ」

 恋人さん曰く、それは人間にも当てはまることらしい。育った環境や自身の持ち合わせた感性で人は変わることができる。勿論それがいいか悪いかはその人次第であるが、進化の方法さえ知っていれば何度でも変化できるだろう。

「もしも何かにつまずいたとき、原点に戻れってよく言うでしょう? 自分の原点はどこにあるのかが分かっていなければ、戻る場所も戻り方もわからなくなってしまうじゃない」
「確かにそうだね、でも人の原点ってどこにあるんだろう」
「それだって人によってさまざまよ、子供の時のことを原点だと思う人もいれば、昨日の自分を原点だと思う人もいる。恋愛だってそうよ、初恋が原点だと思う人もいれば、最近の恋を原点だと思う人もいる。自分で決めればいいのよ」

 但し、浸りすぎてはだめよと言葉を続ける。

「茶葉だって浸しすぎると渋みが出てきてしまうでしょう? そうなれば本来のおいしさではなくなってしまうわ。常に自分の持ち味を出すことを忘れているようじゃ、何も得られないわね」
「今すごくしっくり来た気がする……! ありがとう!」
「感謝は貴女が結婚をするときにしてちょうだいな、先ずはいい人を連れてきなさいよ。私がじっくりジャッジするわ」
「紹介する時点で逃げるような人は、いい人ではないもんね……ありがとう!」
「ふふん、わかっているじゃないの。その通りよ、精々あがきなさいな」

 恋愛のエキスパート並びに、鬼から褒められる日は来るのだろうか。一度くらい素敵な笑顔で褒められたいなと思う私だった。