『皇帝』と聞くと、どんなイメージを抱くだろうか。国の父と考えられているが故に、威厳を持ち民を従える…そんなイメージが妥当ではないだろうか。

 だが、私の近くにいる『皇帝』は……

「あぁ……娘よ、来てくれたのか! 待っていたぞ!」
「女帝さんが様子を見に行ってくれって言ってたから……って何よこの散らかった資料は!」

 ダメダメな人物です。
 彼の名は『皇帝』の正位置。カード番号は4で、『女帝』の正位置と共に、一国の王として君臨している。意味は『威厳・偉大・責任感』、正に皇帝の名にふさわしい。
 だが、彼自身の性格からは本来の皇帝のイメージが感じられない。それは彼の私に対する態度が原因である。

「ハハハ、娘が来ると思うと嬉しくてな。つい放り出してしもうた!」
「え、何やってんのよ! そんなことしたら、また女帝に怒られるよ? 私も手伝ってあげるから早く整理しよう!」

 女帝さん曰く、私が来るといつもの威厳が消滅してしまうらしい。それだけ大事にされているということなのだろうが、一国を治める長としてそれはいいのだろうかと不安になる。

「娘は父想いなのだな、関心関心! これ程良い娘を持てて、我は幸せぞ! さぁ、その愛らしい顔をもっと近くで見せておくれ!」
「その前に資料の整理! これ今日までって書いてあるじゃない……急いでやらなきゃ女帝さんに怒られるでしょ、口よりも手を動かす!」

 私が言うと、父は渋々作業に取り掛かった。時折私の方をちらりと見ては、沈んだ表情で作業を再開する……これの繰り返しだ。嗚呼、何て効率の悪い。これではいつ終わるか分かったものじゃない。

「はぁ……終わったらいっぱいかまってあげるから、頑張って」
「……本当か? よし、この課題終わらせて見せようぞ!」

 流石女帝さん直伝の秘技、効果は抜群だ。彼はさっきのやる気のなさはどこへ行ったのやら……突然やる気を出して作業に取り掛かり始めた。その調子なら今日中に終わるだろう。苦笑しつつも何処か憎めない父親の背中に、私は励ましの声をかけた。

 余談だが、父の部屋に来る前に女帝さんからこんなことを言われていた。

「もし、あの人が仕事を放棄していたら、応援の言葉をかけてあげて欲しいの。そうすればやる気になると思うから」

 きっとこの事を見越して、事前に私に言ったのだろう。流石は夫婦だなと感心したのは、言うまでもない。