「恕くん!」
美咲が声を上げる。
その顔に浮かんでいるのが嫉妬なのか絶望なのかは、私にはよく見えなかった。
目から涙が滝のように流れて止まらなかったから。
背後から恕の腕に優しく抱かれた瞬間、私の中から怖さが消えた。
周りの視線に突き刺されても、痛くも痒くもない。
「真結ちゃんをいじめないで」
恕は穏やかな声でそう言うと、私を立たせて手を繋いだ。
「今日は学校やめて帰ろ?」
甘い声が囁く。人前なのに、恕はいつも二人きりでいる時のように私を蕩かしにかかった。
「大事な話もあるし」
何だかよくわからないが、私はうんうんと頷くので精一杯だった。
「なんで……いつのまに真結に言い寄られたの!?」
美咲が叫ぶように言ったが、恕はそっちを見ようともしなかった。
「僕の方が先に真結ちゃんを好きになって、どうしても手に入れたくなったんだ。だから、囲い込んで誰とも仲良くさせてあげなかった。幼稚園の時からずっと、ね」
あっさりそんなことを言い残し、恕は私の手を引いて教室から出た。一拍おいた後、複数の本物の悲鳴と大きな泣き声が聞こえた。