でも、それから何日も経たないうちに、幼い私は彼の仕打ちが「わざと」だと知ることになる。

彼は一度も話しかけてくれないくせに、他の女の子達と遊びながら、必ずチラチラ私の方を見ていた。

一番仲良しと自称する美咲の相手をしながら、泣きたい気持ちで指をくわえている私を、それはそれは嬉しそうな顔で見る。

真結(まゆ)ちゃん」

初めて声をかけられたのは、ついに耐えきれなくなって、人気のない遊具に隠れて泣き出した時だった。

彼は隣に来ると、私の横にぴたっとくっついてしゃがんだ。

「どうして泣いてるの?」

顔を(のぞ)き込まれてドキドキした。

遠目で見ても綺麗だったあの目が、こんなに近くで私の姿を(うつ)している。緑色を帯びた不思議な色の瞳に、吸い込まれてしまいそうだった。


「真結ちゃん、僕のこと好き?」


否定することなんて出来なかった。

彼は素直に頷いた私の手を取り、ぎゅっと握った。

「一緒に遊ぼ?」

「しのぶくんだけなら、いいよ」

他の女の子達、とりわけ美咲と一緒なんて、絶対に嫌だった。

「わたし……美咲ちゃんと一緒に遊んだら、叩いちゃうかもしれない」


ポロッと言ってしまった私の手は、痛いくらい強く、ぎゅうっと握られた。


「じゃあ、真結ちゃんとは、ずっと二人きりで遊ぶことにするね」


それが、今川(いまがわ)(しのぶ)という悪魔のような男に囚われた瞬間だった。

あの日から、好きとも愛してるとも言われないまま、私の世界は恕を中心にまわることを余儀(よぎ)なくされ続けている。

恕が中高一貫校を受験すると言えば、成績の良い女の子が「一緒に勉強しようよ」と寄っていく。

恕は拒まない。

部活の試合で活躍するようになれば、他校の女子生徒からも差し入れや手紙が渡される。

恕はそれも拒まない。


「ありがとう」


王子様のような微笑みを向けられ、女の子達はうっとりした顔で恕の後をぞろぞろ追っていく。


そして恕はふり返り、群れから(はじ)き出され、悔しくて悲しくて嫉妬で狂いそうになっている私を見て、きらきらとその目を輝かせるのだ。