1,そこに愛はあるのか?

今川(いまがわ)(しのぶ)はズルい男だ。

いつだって自分の気持ちは明かさないくせに、私の心をがっちり(つか)んだまま離してくれない。

「もうヤダ!」

散々ふりまわされて疲れ果てた私が泣き出すと、恕は急に優しくなり、両手を広げて微笑みかけてくる。

「おいで」

その腕の中がどんなに温かく甘美な場所か、すでによく知っている私が、誘惑に勝てるはずがない。

「ズルい……」

ふらふらと倒れ込むように抱きつくと、すかさずぎゅっと腕をまわされ、私の傷ついた心が急速に(いや)されていくのを感じる。

真結(まゆ)ちゃん」

耳元でささやく声まで甘い。

「可愛いね」

こんな時ばっかり!と頭では思うのに、きゅーんとときめいてしまう自分を止めることができない。

「僕がこんなことするの、真結ちゃんだけだよ」

恕はそう言って私の頬に優しいキスを落とす。

「本当?」

疑り深く見上げた私の目に、おそろしく綺麗な白い顔がうつる。

「うん」

言葉も仕草も(とろ)けるように優しく私を包み込んでいるのに、恕の目は笑いをこらえているかのようだ。

たまらなく愉快だと、雄弁に語っている。

「ズルい……ひどい……」

私は悔しくなって恕を(にら)みつける。

「真結ちゃん、僕のこと嫌いなの?」

「そんなわけないの、わかってるくせに」

答えた瞬間、恕は私の唇をぺろりと()めた。

たったそれだけで身体に電流が走った。痺れて立っていられなくなる。

「ほんと可愛い」

意地悪そうな顔で笑う恕に支えられながら、私はこの男からどうしたら離れられるか、もっと真剣に考えなければいけないと思った。