ガエウの食堂でみんなから見送りを受けたトゥイーリは王城に戻り、読書をしながら最後の夜をのんびりと過ごしていた。

 いつもの時間にジュリアがワゴンにトゥイーリとマレの食事をのせ、テーブルの上に並べていく。

大好きな鶏肉の香草焼きが出され、噛みしめるようにゆっくりと味わう。

 すべてを食べ終わったのを確認したジュリアは食器を下げていく。
「いつもありがとうございます」
 食器を片付けるジュリアにトゥイーリは声をかける。
 ジュリアはその言葉に首を傾げたが、
「いいえ、トゥイーリさま。なにかあればすぐに声をかけてください」
 と笑顔で返した。
「ありがとうございます。あっ、そうだ。これから本を読むから、明日は夜だけ持ってきてもらえますか?」
「わかりました。料理長にお伝えしておきます。それでは、失礼致します。お休みなさいませ」
「おやすみなさい」
 ジュリアが出ていき、人の気配が無くなったのを確認すると、クローゼットに入り、部屋を抜け出すために隠しておいた荷物をベッドの上に持っていき、最終確認をする。
「こっちも準備できたぞ」
 人間に変身していたマレに声を掛けられたが、
「わかったわ」
 とトゥイーリは声のほうを向かずに自分の荷物を確認している。
荷物の確認を終えると、トゥイーリはクローゼットの中に入り、上はシャツ、下はパンツ、足元は底が平たい黒のブーツという動きやすい服装に着替えた。
「私も準備はできたわ」
 トゥイーリはクローゼットから出るとマレを見て、外に出る準備ができていることを確認すると、ベッドを整え、少しだけ部屋の整頓をした後に部屋の灯りを消した。
 部屋の中は暗闇となったが、クローゼットから光が漏れている。
「さぁ、行くわよ」
 トゥイーリとマレは薄手の外套を羽織り、自分の着替えを入れたカバンをそれぞれ持つ。

 ただ、マレのカバンにはこの部屋で見つけたアリスィがトゥイーリに残した手紙が入っている。
 表書きには、16歳になったトゥイーリへ、と書いてあるので、その年の誕生日に見せようと思ったのだ。
 ただ、不思議なことに、現国王宛の手紙も見つかった。
 旅先からすぐに送ったほうがいいのか、ここに残しておいたほうがいいのか。
 それも考えないといけない。
 小さなため息をついてマレは、
「よし、行こう」
 とトゥイーリを見つめ返し、2人でクローゼットの中に入り、灯りを消すとそのまま外に出た。

 外に出て少し離れたところで王城を一度見上げた。
 つられてマレも王城を見上げる。
 この城を出ようと思った時から4年が経っていた。やっと、知らない国でも半年ほどは何もせずに暮らせるだけの商品を集めた。

 それは、旅に出てもかさばらないよう、絹で織られた布地である。
 この国では割と安価だが、他の国では、そこそこ高値になる、とマレに言われて少しずつ買い集めたものだ。

 それを滞在する国の町の店で売り、お金に換えていく。

(さようなら。ジュリア、何も言えなくてごめんなさい)
 ジュリアに心の中でお詫びを言って、前を向く。
「マレ、行きましょう」
 外套のフードを目深にかぶり、気づけば少し涙が出ていたが、手の甲でぬぐい三日月の頼りない月明りの中、一路西へと向かい歩き始めた。