「大袈裟だなー柚歌は。そんな遠くに行くわけじゃないのに」

「だって……」

その続きを言いかけて口をつぐんだ。泰輝は笑っているのに、私は泣きそうだった。
繋いだままの手の温もりが妙に切ない。

「俺が居ないと寂しい?」

「寂しいよ」

いつかと同じ表情で泰輝が言った時、自分でも不思議なくらい素直な言葉が零れた。
泰輝は湿気に乱れた私のまとめ髪を撫でてから、「まだ少し先の話だけどね」と付け加えた。

「ねぇ泰輝」

「どうした?」

「ずっと一緒に居てくれる?」

ふと見上げた月があまりに綺麗で、私は柄にもないような言葉を口走っていた。
歩みを止めて振り返った泰輝は私の手首を掴んだ。そして次の瞬間、私の唇は強引に塞がれた。
すっかり痺れたままのそれが足なのか心なのか、自分でもひどく曖昧になった。

「柚歌があんまり可愛い事ばっか言うから」

何の効力も持たないその言い訳に、私は「ごめんね」と謝った。
彼はそれを小さく笑ってから、諭すように続けた。

「海はさ、どこまで行っても無くならないだろ?」

「うん」

「それと一緒。だから残念ながら柚歌は、来年も再来年もずっと俺としか花火を見られない。なんてったって俺は柚歌の海だからね!」

泰輝はそう言うと縁石の上に飛び乗って、子どものようにおどけて見せた。

「そっか!それは残念だなぁ」

「あ、こら」

軽口を叩いた私の頭を、彼の持っていた団扇がぽんと小突く。
私たちは再び繋いだ手をぶんぶんと振りながら、まだ蒸し暑さの残る夜道をふらふらと歩いた。

曲がり角に見えてきた真っ黒いセダンの向こうに、友人たちと盛り上がる慎くんとリナちゃんの姿が見えた。