「泰輝のお陰だよ。このあいだは本当にありがとう」

「ううん、俺は何も。家出した彼女をちょっと家に送り届けただけ」

泰輝は駅前で配っていた団扇をパタパタとさせながら、意地悪な笑みを浮かべている。

「お母さん泰輝の事、凄く褒めてたよ。さすがおばちゃんキラーだね!」

私が茶化して見せると、彼は扇いでいた手をぴたりと止め、急にこちらに向き直った。

「柚歌さ、あの日お父さんも家にいるなんて、一言も言ってなかったよな」

「え、そうだっけ?」

「そうだっけ、じゃないよ。正直焦ったんだから俺」

「ごめんごめん」

余裕そうな表情の裏でそんなことを考えていたのだと知り、可笑しくてたまらなかった。
泰輝はいつまでも笑いの止まらない私の両頬を、少々不服そうにつまんだ。