河川敷の近くまで来ると、人混みは動線を複雑化させていて、前に進むのもやっとだった。
地元で開催される小さな花火大会しか経験のなかった私は、その群衆と母が締め過ぎた浴衣の帯にすっかり息苦しさを覚えていた。

「柚歌、離れないでね」

慣れない人混みとむせ返るような屋台の熱気でぼんやりし始めた私の手を、泰輝が掴んだ。
有無を言わさずやや強引に握られたその手を頼もしく感じながら、私は彼の後ろにぴったりくっついて歩いた。

大小の背中が入り乱れてどこまでも続く土手に二人分のスペースを見つけ、ようやく腰を下ろした私たちは、かき氷を食べながらいつしか薄暗くなっていた空を眺めてその時を待った。

「今日は蜘蛛じゃなくて金魚?」

泰輝は不思議そうな顔で、私の耳元をまじまじと見た。

「うん。このピアス、お母さんが浴衣に合うんじゃないかって用意してくれてたみたい。浴衣も一緒に買いに行ったんだよ」

私はガラス玉を指で弾いて、くるくると揺らしてみせた。

「そっか、お母さんと仲良くやってるみたいでよかった」