普段の半分にも満たない歩幅を焦ったく感じながら家の前の坂道を下り、国道沿いのバス停から少し離れた場所で迎えを待った。
時折通り過ぎていく車を一台一台確認しながら"車種くらい聞いておくんだった"と後悔し始めた頃、不自然なほどに大きな排気音が近づいてきて、真っ黒なセダンが私の前で止まった。

「柚歌、お待たせ」

後部座席のパワーウィンドウから泰輝が身を乗り出した時、私はホッとしたと同時に、少々威圧的にも見えるこの車を家で待たなくて正解だったと思った。

「柚歌ちゃん、浴衣似合ってるね!」

慎くんは運転席で、車とは相容れない満面の笑みを浮かべている。

「慎くん、今日はよろしくお願いします」

「おう、任せといて」

車内にはエアコンの強い冷気と共に芳香剤と煙草の入り混じった独特の匂いが立ち込め、カーステレオから流れる洋楽は、低音だけがやたらと主張を繰り返している。
私はその空気感に少し緊張を覚えながら、後部座席の泰輝の横に乗り込んだ。

「柚歌、早速だけど紹介するね。兄ちゃんの彼女のリナちゃん」

助手席から顔を出した慎くんの彼女は、しっかりセットされた金髪に真っ黒な浴衣がよく似合う、とても綺麗な人だった。