生成地に黒の乱菊模様が入った浴衣は、袖を通すとまだパリッとしていて、朱色の帯が良く映えた。

「よし、帯はこれで出来たわよ!」

「ありがとう、お母さん」

「やっぱりこの色にして正解だったわね。良く似合ってるわ」

下駄を履いてドキドキしながら玄関の姿見の前に立った直後、ぎょっとしてリビングに引き返した。帯に合わせて母が貸してくれた口紅は、高校生の私には少々、いや、だいぶ派手すぎたらしい。
脳裏に困惑を浮かべる泰輝の顔がちらついて、慌てて引き抜いたティッシュペーパーでしつこいくらい入念に押さえた。

 満足げな表情の母は、私の浴衣姿を携帯電話で何枚も撮影し始めた。あっという間に単身赴任先へ戻っていった、父に送る為らしい。
私は履きなれない下駄の存在を思い出し、巾着袋の中に、お守り代わりの絆創膏を何枚か忍ばせた。

「あ、そうそう!忘れてた」

二階にバタバタと上がって行った母は、掌サイズの小さな紙袋を握って再びリビングへ戻ってきた。
母は今朝から私と同等、もしくはそれ以上に落ち着かない様子で、家中を走り回っている。

「これ、気に入るか分からないけど……もし良ければ使って」