静まりかえった食卓に、母が鼻をすする音だけが響いた。父は俯いて、口を堅く結んだままだ。

「柚歌が生まれた時は、この子が健康で居てくれたらそれで良いってそう思ってた筈なのに。いつの間にか、しっかりした子に育てなきゃ、立派な子にしなきゃってそればっかり考えて……柚歌の気持ち、全然理解出来てなかった。私は柚歌をずっと傷つけてきたのね」

何度目かの沈黙の後、ようやく口を開いた母は、母の顔をしてそう言った。
それを見て私は酷く後悔した。今日という日はきっと、もっとずっと昔に訪れるべきだった。

「俺がいけなかったんだ。いつも仕事ばかりで、柚歌が小さい時からずっと、美紀子に任せっきりだったもんな。柚歌と美紀子のために必死で働いてきた筈だったのに、二人に辛い思いをさせてしまった。二人とも、本当に悪かった」

「柚歌、ごめんね。だけどお父さんも私も、柚歌が何より大切なのよ。それだけは、本当だから」

色褪せた家族写真も、テーブルの上の唐揚げも、そして父も母も。
その全ては何一つ変わらずにいたのに、私はいつしかそれを見失っていたのだ。