突き刺さるような空気の間を縫って、リビングに足を踏み入れると、テーブルの上にはラップによって息絶えた夕食が並び、重苦しい雰囲気が漂っていた。

「柚歌、言いたい事があるなら言いなさい」

三人でテーブルを囲むなり、父は言った。
すぐには言葉が出て来ずに、長い長い沈黙が続いた。


「お母さんは私の事が嫌い?」

ようやく、唐突に口に出した後、我ながらそれは適切ではないと思った。
案の定、母が鬼のような形相で私を睨む。

「そんな訳無いでしょう!私がどれだけ心配したと思ってるのよ!」

「美紀子、いいから落ち着きなさい」

声を荒げた母を父がなだめて、私の為の静寂が再び用意された。
私は剥き出しの言葉ばかりを並べ立てて、母を傷つけた。
激しい口論になっても、やめなかった。
大切な人を傷つける事は、自分を傷つけるその何倍も痛い。だからこそ弱い私はずっとそれを避けてきたのだと、改めて実感した。

母と二人すっかり目を腫らした頃、何年も心の中を彷徨っていた幼い私を、ようやく救うことができたような気がした。