「私……帰ろうかな。帰って、お母さんに自分の気持ち話してみようと思う。うまく伝わるかどうかは、自信ないけど」

母という絶対神話が崩れたその時から今日まで、母と争うのを恐れ、欺く事を選び続けてきた。
私は傷口に蓋をしただけでそれを治したような気になっていた事に、ようやく気がついた。

「うん。心配してるだろうし、それがいいよ。きっと大丈夫だから。それに俺は何があっても柚歌の味方だから。それだけは忘れないでね」

「うん、分かってる。ありがとう泰輝」

きっと大丈夫。
その言葉だけで、なんだか急に強くなれたような気がした。

泰輝は椅子から立ち上がると、家まで送ると言って、自転車の荷台をポンポンと叩いた。
勢いで飛び出しては来たものの、すっかり暗くなった夜道を一人歩くのは流石に恐い。
私は彼の提案に、有り難く甘えた。

「柚歌のお母さんはさ、俺がどんな奴か分からないから心配してるんだよね?」

「うん、そうみたい」

風とペダルの音にかき消されながら、前後で小さく叫び合う。

「じゃあ今から行って俺が良い男だって事を証明すれば、何も問題ないな」

「え~大丈夫~?」

自信たっぷりな彼の言い方に、かえって不安を覚えた。

「大丈夫だって!こう見えて俺、近所では昔から"おばちゃんキラーの泰輝"って呼ばれてるんだから」

「ふふ、なにそれ……!」