「柚歌、ご飯よ」

突然響いたノックとほぼ同時に、母が部屋に入ってきた。
慌てて携帯電話をポケットにしまった後で、絶妙すぎるそのタイミングに、私はどこか違和感を覚えた。

「今柚歌が電話してるの、たまたま聞こえちゃったんだけど……"たいき"って誰なの?」

あぁ、やっぱりか。

たまたま、という言葉を必要以上に強調して話す母を、私は心底軽蔑した。

「……盗み聞き?」

「人聞きが悪いわね、聞こえちゃっただけよ。柚歌、彼氏が出来たの?」

「まぁ、そうだけど」

「相手はどんな子なの?同じ学校の子?」

「どうして?」

「母親だからよ。知る権利があるでしょう」

そのセリフにはもう、いい加減うんざりしていた。
今まで何度も飲み込んできた言葉がため息と一緒に、遂にこぼれた。

「お母さんはいつもそればっかりだね。権利って何?もうほっといてよ」

私が珍しく口答えをしたので、母は一瞬驚いたような顔をした。けれど怯む事なく、捲し立てるように続ける。

「最近帰りが遅くなったのも、テストの成績が悪かったのも、その子と付き合いだしたせいじゃないの?どこの誰だか言いなさい!……それとも柚歌、私に言えないような子と付き合ってるの?」