「他にする事もないから、仕方なくね!ところで泰輝、何か用?」

「あ、そうそう。柚歌ってさ、次の土曜日空いてる?」

「土曜?特に予定はないけど……」

「兄ちゃんが彼女と花火大会行くらしいんだけど、一緒に行かないかって。柚歌って人混みとか平気?」

「え、行く!行きたい!」

人混みが平気かと聞かれれば正直言って苦手だ。
けれど今の私にとって、そんな事は大した問題ではない。
今年の夏は、ただ暑さをやり過ごして受験勉強に勤しんでいた、去年の夏とはまるで違う。


「じゃあ決まりだね。兄ちゃんも"柚歌ちゃんの送迎は俺が責任持ってする!"って張り切ってたし安心して」  

「本当?それじゃ、よろしくお願いします」

降って沸いた夏らしいイベントに心を弾ませながら、私は電話を切った。
そして頭の中では既に、母にどんな嘘をつこうかと考え始めていた。