「後でお茶、出すから。ゆっくりしていってね」

「ありがとうございます。お気遣いなく」

少々無理をして大人ぶった返事をした後、私は泰輝に案内されて二階へと上がった。

初めて足を踏み入れた"男の子の部屋"は思っていたよりずっと綺麗に整頓されていた。
勉強机にテレビ、小さな折りたたみ式のテーブル、モノトーンに統一されたシングルベッド。
必要なものだけが揃えられた、シンプルな空間。
本棚にはバスケットボールを題材にした漫画や、海の生き物の図鑑なんかが並んでいる。

小さなテーブルで一緒に昼食を済ませると、泰輝は約束通り、私に数学を教えてくれた。

「これはこっちがX、こっちがYだから……こうなって……わかる?」

泰輝がひとつひとつの問題を、私でも理解できるように丁寧に説明してくれる。

「泰輝凄い!先生になれるよ!」

「俺は柚歌だけで手一杯だよ」

「何それー」

「ほら、これが出来たら次の問題も出来ると思うから、やってみて。わからなかったらまた教えるから」

彼はそう言うと、私には全く理解できないであろう分厚い問題集を開いて、隣で自分の受験勉強を始めた。