そう言われると少しほっとしたような、逆に緊張が高まったような、なんとも複雑な気持ちになった。

「ほらほら、そんなに心配しなくていいから」
泰輝が私の肩をぽんと叩く。
どうやら私は、彼の前では本当に顔に出やすい人間らしい。

泰輝の家は、あの砂浜から五分と離れていなかった。きちんと手入れされた庭には、色とりどりの可愛らしい花があちらこちらに咲いている。


「ただいまー」

「お邪魔します……」

泰輝に促されるままに、私は玄関に足を踏み入れた。

「いらっしゃい!」

元気な声と一緒にパタパタと賑やかな足音がして、泰輝のお母さんがニコニコと出てきた。
泰輝と違って随分と小柄だったけれど、その穏やかな笑顔はどこか彼に似ていた。

「葉山柚歌です。初めまして」

私はペコリと頭を下げて、出来る限りの笑顔を作った。

「あなたが柚歌ちゃんね。泰輝から話は聞いてるわ。さあ、どうぞ上がって!……あら。雨、強くなって来た?二人とも濡れてるじゃない。風邪ひいたら大変」

泰輝のお母さんは慌てたように家の中に戻っていくと、タオルを二枚持ってきてくれた。
恐縮しながら受け取ると、それは陽だまりのような暖かな匂いに包まれていた。